3.バーミンガム地方教育局の事例 |
バーミンガムはロンドンに次ぐ第2の都市で、イングランド中部に位置し、人口200万人、工業・商業都市として栄えている。バーミンガムの地方教育局は、500の学校を管轄する英国はおろかヨーロッパ最大の地方教育局である。ここには歴史的に特別学校が数多く存在し、また多民族が居住する多文化地域もある。以下では現在取り組まれている、インクルージョンに向けての教育施策を取り上げる。
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1)バーミンガムの特殊教育 |
バーミンガム地方教育局から入手した資料5)によると、1999年に新たに「判定書」を所持した児童生徒の通常学校在籍率は47%(全国平均71%)、特別学校在籍率は20.2%(全国平均17.4%)、全児童生徒数に対する特別学校在籍者の割合は1.7%(全国平均1.29%)であり、この数字にインクルージョンヘの取り組みの遅れが指摘されている(表15、16参照)。そこで、地方教育局では、1998年10月にインクルージョンに向けての試論を提出し、それに基づく議論をもとにインクルージョンのための戦略プランをたてた(1999−2000)。そして今年に入り、新たな戦略プランを打ち出している(2001−2004)。現在地方教育局では27ミリオンポンド(日本円で約45億9000万円)の資金および中央政府からの資金が特別なニーズ教育に使われており、各学校では予算総額の平均6%が使われている。地方教育局にはインクルージョン・コンサルタンシー・サービスという部門が設置されており、この中には中央政府からの直接資金によるインクルージョン・ネットワークという組織も形成されている。特別な教育的ニーズのある子どもの在籍状況や居住地、通学方法に関して総合的な見直しが行われており、経費節減と地域リソースの活用に向けての再編成に取り組んでいる。
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表15.通常学校で新たにステートメントを所持した生徒の割合(1999年の教育雇用省より)
全国平均 |
主要都市平均 |
バーミンガムLEA |
71% |
63% |
47% |
通常学校で新たにステートメントを所持した生徒の割合
(2000年の教育雇用省より) |
(2001年10月に公表予定) |
(2001年10月に公表予定) |
67% |
通常学校で新たにステートメントを所持した生徒の割合
(1999年の教育雇用省より) |
17.4% |
21.9% |
20.2% |
特別学校への在籍生徒の割合 |
1.29% |
1.42% |
1.7% |
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表16.主要都市における通常学校でステートメントを所持する生徒の割合
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1994 |
1999 |
バ ー ミ ン ガ ム |
58% |
48% |
ブ リ ス ト ル |
82% |
71% |
リ ー ズ |
74% |
92% |
リ バ プ ー ル |
54% |
59% |
マ ン チ ェ ス タ ー |
18% |
32% |
シ ェ フ ィ ー ル ド |
59% |
84% |
ニ ュ ー キ ャ ッ ス ル |
56% |
74% |
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2)インクルージョン計画 |
バーミンガム地方教育局は、インクルージョン・プランの中で、すべての児童生徒の文化・宗教・能力の多様性を認め合う市民社会の形成を旗印に、(1)保護者の意見を尊重し、早期教育段階から地域の通常学校への通学と適切なリソースおよび支援ネットワークが利用できること、(2)1996年教育法に従い地域の仲間と共に、教育局のリソースを十分に利用して地域の通常学校へ通学できること、(3)生涯学習として包括されうる広範囲でバランスのとれたカリキュラムにアクセスできること、(4)同年齢の仲間と同様、同じ学習環境の一員としてみなされること、すなわち共通の経験をすることができるようになること、これらをインクルージョンの将来像として描いている。この指標にむけての取り組みは次の4つの主要原理に基づいている。
(1)子ども優先(children first)であること−バーミンガムの子ども達が学習に関するパリアを乗り越えることができるように、そして地方教育局が優れた質の教育を提供し続けて子ども達のニーズに応えるようにすること、
(2)現存するリソースの価値を認識すること−特別学校等にある質の高い技術と専門性は、とても価値あるものであり、これを失ってはならない。これらが通常学校の同僚にも分かちもたれるように、ますます発展することが望ましい。
(3)共に計画すること−資源を創造的かつ効果的に利用するためには、地方教育局は、両親・保護者・通常学校および特別学校の教師・行政官・ソーシャルサービス・保健局・児童生徒自身と共に計画をたてなければならない。
(4)リソースは柔軟であること−個々の子どもはそれぞれのニ一ズを持ち、それゆえ柔軟に考える必要がある。同時に予算が有効に使われているか、注意深い観察をしなければならない。
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3)アクション・プラン |
バーミンガム地方教育局訪問時にインクルージョン・サービス責任者のMaloney氏から概要説明を受けた。氏によると、これまでに4つの優先行動項目を設定してアクション・プランを練り上げ、これに関する解説書と実行マニュアルを作成したという。現在、これらを教育現場に広めていくことを行っている。そのための一つの手段として、インクルージョン週間というイベントを開催している。2年前に「なぜインクルージョンか」というテーマで大会を開き、昨年は「どのようにインクルージョンを進めていくか」をテーマとし、今年度は実際のインクルージョンに向けての取り組み(インクルーシヴカリキュラム)の報告を持ち寄ることを企画している。この大会は500校すべての学校を対象に呼びかけているが、実際に参加が見込まれるのは、200校前後だという。4つの行動項目は以下のようなものである。
(1)インクルージョン教育への取り組みを増大するため、すべての学校や就学前教育に働きかけること、
(2)地方の通常学校におけるインクルージョンをサポートするために特別学校の新しい役割を設定すること、
(3)インクルーシヴな実践のために、保護者とパートナーシップを持つすべての教育、ソーシャル・サービス、保健局、民間団体に働きかけること、
(4)地域共同体でのインクルーシヴな取り組みに焦点をあて、関係する共同体をサポートして、そのインクルーシヴなネットワークを拡大すること。
これら4つの項目はさらに細かな下位項目を持ち、それぞれ関係者、グループ、責任者、評価、目標値、目標達成期日、リソースの項目から構成している。この他、チャレンジング・チャイルド(他動で、衝動的な子ども)をどのようにインクルーシヴな教育へと導いていくかについてのサポート・プランや特別学校の未来についての計画書などがすでに作成されている。
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4)インクルーシヴな実践のためのスタンダード |
特別な教育的ニーズを有する子どもの進歩を評価するために、従来のナショナル・カリキュラム達成度による評価やGCSEだけでは不十分であることから、新たなカリキュラムモデルが必要とされるようになった。バーミンガムではHoward Gardnerの提唱するインテリジェンス・モデルを下敷きにして、独自の評価基準(スタンダード)を設けた。現在、このスタンダードを用いて実際にインクルーシヴな教育力リキュラムに取り組んでいる学校が20校ある。
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(菅井 裕行) |
資 料
・Sen Parent Partnership Service.
・Success for Everyone (Standards for inclusive Pracice in Schools).
・Success for Everyone Under Five (Standards for inclusive Practice in Early years Setting).
・Inclusion Week 22-26th November 1999 A Review.
・Draft Strategic Plan for Inclusion Consultation Paper.
・Creating a Vision of Successful Inclusion for All Young People in Birmingham.
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