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本文 III 主要国における特別な教育的ニーズを有する子どもの指導について
トップ(目次) > III章トップ(目次) > 2.アメリカ-04
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2.ヴァージニア州
1)州の概要
 ヴァージニア州は米国東海岸に位置している。首都ワシントンDCに隣接し、面積は約11万平方キロメートルで全米36番目、人口は約620万人で全米12番目、その75%が大都市に住んでいる。都市部を中心に発展した州であるといえる。

2)州の教育行政の組織
 州政府教育局のもとに、中間学区(リジョンRegion:Regional Study Groups)とそれぞれの中間学区の下に複数の学区(Schools Division)が構成されている。
 この学区(Schools Division)が地域の教育行政を行っている。
 中間学区(リジョンRegion:Regional Study Groups)は、州に8つあり、学区内に共通の教育課題について対応している。
 学区(Schools Division)は、一般の行政区とは異なった区分で構成され、州全体で134の学区がある。

3)州政府の教育施策
(1)障害のある子どもの教育
IDEA(Individuals with Disabilities Education Act)に基づき、障害のある子どもの教育は、3歳から22歳までを義務教育として行っている。
 障害のない子どもは、5歳から18歳までが義務教育となっている。障害のある子どもについては、3歳から22歳までを義務教育として「特殊教育・学生支援課(Special Education and Student Services)」が所管している。
 0歳から2歳までの子どもについては、早期教育が行われ「精神衛生・精神遅滞・薬物乱用局」が所管している。IDEA(Individuals with Disabilities Education Act)に基づき、LRE(Least Restrictive Environment)を推進し、多くの障害のある子どもは通常の学校での教育を受けている。障害のある子どもの教育の場は、通常クラス42.24%、リソースルーム29.21%、分離クラス25.33%(3歳から21歳までのすべての障害児:1996−1997)となっていて、これは、全米の平均値に近い割合である。
 通常の学校での教育に加えて、寄宿制の州立盲・聾学校が地域別に2校設立され、重複障害の子ども、行動に問題のある子ども、保護者の希望のある子ども等を対象として教育を行っている。州立盲・聾学校では、学校での教育に加えて、地域の学校への交流を行っている。

特殊教育を受けている子どもの数
教育対象の子どもの総数 約100万人
特殊教育の対象の子どもの総数 約15.7万人
特殊教育を対象の子どもの割合 約13%
盲・聾学校の子どもの数 約170人

6歳から18歳までの子どもの障害別人数
障害の分類 人数(人)
教育可能な知的遅れ 4,880
訓練可能な知的遅 815
重度障害 517
聴覚障害 664
言語障害 22,337
視覚障害 226
情緒障害 5,213
身体・運動障害 519
その他の健康障害 5,750
自閉症 1,225
特異的学習障害 32,832
盲聾 3
重複障害 925
外傷性脳障害 117
発達障害 6,518

(2)障害のある子どもの教育を行うための費用
 州政府は、学区に対して障害のある子どもの教育に関わる費用の26%を拠出している。連邦政府から8.8%の予算の拠出があり、残りの65.2%が学区の支出となっている。
 支出する教育費用は、特殊教育を受けている約13%の子どもに対して、全体の教育費用の25%をかけている。これは、一人当たり、障害のない子どもの約2倍の費用をかけていることになる。

特殊教育と通常教育の費用の比較
特殊教育を受けていない子ども
子どもの人数 かかった費用 一人当りの費用
966,030人 $5,482,406,621 $5,675
特殊教育を受けている子ども
153,527人 $1,823,022,589 $11,874
内訳 $871,295,344(通常教育分)
  $951,727,245(特殊教育加算)

(3)州の教育の基本方針
(1)インクルージョンの推進
 IDEAにしたがってインクルージョンを推進しているが、州立の盲・聾学校を設置して重複障害、行動障害等に対応している。また、学区には、分離型の特殊教育センターや各学校に併設された特殊教育センターが置かれ障害に対応した特殊教育プログラムが実施されている。
 民間団体(The neighborhood school now等)がインクルージョンの推進力となっている。
(2)障害のある子どもの教育評価
 州政府は、州を挙げて学力の向上に力を入れている。州では、カリキュラムの基準(SOL:Standards of learning)を設け、その基準を特殊教育にも適用している。3年、5年、8年と各コースの修了時に統一テスト(Standards of Learning TEST, Stanford Achievement Test, 9th Edition)を行い達成度を評価している。
 評価に当たって、障害のある子どもには、障害に対応した配慮がなされている。
(3)インクルージョンの課題
 インクルージョンには、特殊教育と通常教育の双方から反対があったが、その推進には、通常教育の教師と特殊教育の教師が連携し協同で仕事をしていくことが重要であることから、コラボレーション(協働:collaboration)の必要性が教員の研修と共に強調されていた。

(4)学区(Schools Division)の教育行政
 フェアーファックス郡学区(FCPS:Fairfax County Public School)の教育行政
(1)郡の概要
 フェア−ファックス郡は、ワシントンDCの郊外に位置し、面積は約1033平方キロメートル、人口は約95万人で、その多くが住宅地域になってる。
(2)学区の教育行政組織
 教育行政は、フェアーファックス教育委員会(The school board)のもとに教育事務所(Administration)がおかれ、さらに、学区内を3つの地域に分けてそれぞれに教育事務所と責任者(Superintendent)が配置されている。学区内には、小学校(幼稚園5歳−6学年)133校、中学校24校がある。
 各教育事務所には、特殊教育部門とその責任者が配置されている。(訪問したのは、エリアIIIの教育事務所である。)
(3)学区の教育施策

a)障害のある子どもの教育
 IDEAに基づきLREを推進し、多くの障害のある子どもは通常の学校での教育を受けている。2歳から22歳までの子どもに特殊教育を提供している。特殊教育を受ける人数の割合は約15.5%となっている。

特殊教育を受けている子どもの数
教育対象の子どもの総数 約15.5万人
特殊教育の対象の子どもの総数 約 2.4万人
特殊教育を対象の子どもの割合 約 15.5%

 通常の学校においては拠点校を設置し特定の障害に特化して特殊教育担当の教員を派遣したり、施設や設備の充実を図っている。(視覚障害教育の拠点校)
 その他、特定の障害(情緒障害・聴覚障害等)については、特殊教育センター(分離型施設あるいは学校の別棟に設置)を設置し、IEPに基づいてリソースとしてプログラムを提供している。(聴覚障害については、手話の教育プログラムがある。)
 また、地域の学校(ベーススクール)には、障害に対応した教員が巡回して指導に当たっている。
 重度の子どもについては、学区外の施設に教育を委託している。(特殊教育全体の1%未満)

b)早期教育
 医師の助言に基づいて、早期教育(プリスクールプログラム)にアクセスが行われる。このプログラムは公立小学校内で提供され、子ども8人に対して2から3人のスタッフが派遣されている。プログラムのサービス内容はノンカテゴリーで行われ2から3年で終わりになる。(必要に応じて継続する。)手厚いサービスが提供されているので、5歳になり幼稚園に入ると急に大きな集団となり対応が悪くなるということでとまどいがあるようである。

c)学習障害への対応
 学習障害については、各学校でのCo-teachingによる指導、リソースルーム(ラボと呼称)での指導などが行われている。

d)特殊教育センターでの教育プログラム
 分離型の特殊学校は、特殊教育センターとして存続している。小学校中学校に別棟として設置されている場合と別に設置されている場合がある。
 情緒障害、聾難聴の教育(手話やキューの使用)職業教育を行うためのプログラムが提供され、リソースとして利用されている。特殊教育センターでの教育は、IEPに基づき指導を受ける時間が決められている。

e)教育予算・教育条件
 学区全体の運営費は、約12億ドル(約1300億円)で、子ども一人当たり約8200ドル(約90万円)となっている。
 特殊教育には手厚い人員配置が行われている。

クラスサイズ(平均)の比較
通常教育(小学校)
  1年−3年     24.5人
  4年−6年     26.5人
特殊教育  4から5人(最大7人)

f)学区の施設数
学校とセンターの総数
種   別
小学校(幼稚園5歳-6学年)
Elementary Schools
133
ミドルスクール(6-8年)
Middle Schools
3
ミドルスクール(7-8年)
Middle Schools
18
中学校(7-12年)
Secondary Schools
3
高等学校(9-12年)
High Schools
20
特殊教育センター
Special education centers
26
特別サービス
Special service sites
2
アルターネイティヴスクール・プログラム
Alternative Schools and programs
32


g)教育評価・教育成果
 フェアーファックス郡学区の高校卒業生の85%はScholastic Assessment Test(SAT I)を受け、ヴァージニア州平均1006ポイント全米平均1017のところを1095のポイントを上げた。また、ドロップアウトは、全米より2.8ポイント(%)少ない等の教育の成果を上げている。こうした状況の中で、特殊教育を受けている子どもがいると、学校の評価が下がることの危惧があるとのことである。
 また、フェアーファックス郡学区では、特殊教育卒業者の96%は中等教育を受けているか就労しているとのことであり、教育の成果として語られていた。

h)教員研修
 教育事務所が中心になって教員研修を進めてきた。最近になっての関心は、通常の教師と特殊教育の教師が協同して通常の学級の中で支援をするかというところにステップアップしている。
 通常の学級の中での評価体制の整備を進めている。個別的なテストで適切にアセスメントを行うことでニーズを的確に一貫性をもっ見極めていくことで、過去10年増えて続けてきた「特殊教育を50%以上受けている子ども」の数を少なくするように努力している。
 通常の学校で子どものアセスメントができるような体制をつくること、通常の学級の教師の対応を生かすこと、適切な教育を通常の学級の中でできるような体制作り等を進めている。これは、拡大し続ける特殊教育予算を効率的に運用することが求められているからである。

(5)学校における障害のある子どもの教育
(1)ロビンソン中学校での教育
(Robinson Secondary School--middleミドルスクール:中学の1年2年生によって構成される中学校)

a)学校の概要
 フェアーファックス郡学区内の中学校である。
 生徒数1342人の大規模校であるために、サブスクール方式での学校経営を行っている。(サブスクール方式:学区内の大規模校3校で実施、7学年、8学年をそれぞれ学校に見立て校長を配置して経営を行っている。)

b)障害のある子どもの教育の状況
 全生徒1342人の生徒のうち74人が分離型の特殊教育を受けている。211人が特殊教育リソースの支援を受けている。リソースルームでは、1日に1時間から3時間の指導を受けている。

障害のある子どもの教育
7・8年生の内訳 人 数
一般教育 1250
英才教育 0
特殊教育(分離型) 74
特殊教育プログラム
第2言語(英語) 46
英才教育プログラム 196
特殊教育プログラム 211

c)職員配置の状況
 通常の学級は、10の指導チームによって指導が行われていて、各指導チームにそれぞれ1名の特殊教育教師が配置されている。(学校全体で10名の担当教師が配置)。
 ロビンソン中学校は、視覚障害のある子どもの教育の拠点校とになっているために、専任の視覚障害の専門教師が4人学区より派遣されている。
 また、手話通訳者が教室に入り込み、聴覚障害のある生徒の授業の支援に当たっている。

スタッフの職種と人数
職   種 人 数
管理者 3
専門家・教師 73.2
ガイダンス・カウンセラー 6.5
安全・セキュリティーの専門家 1
指導アシスタント 7
事務官 7.5
警備 4.0
(小数部分は、兼務・時間配置のため)

d)障害のある子どもへの支援
 a)特殊教育担当教師による支援
 通常の教育の教師と特殊教育の教師との協力による授業形態が進められている。(Co-teaching)
 その他、子ども同士が教え合うピアティーチング等の指導形態が工夫されている。
 基礎的な教科は少人数で教えたり、指導内容によっては障害のある子どもだけの授業(Basic Skill, Study Skill, Organization)が提供されている。

 b)視覚障害担当教師による支援
 学区教育事務所より、4人の専任の教師が派遣されている。
 通常の学級で使用する教材の作成、通常の学級の教師への助言等の支援、通常の学級への入り込み指導等を行う他、特設の時間での個別指導を行っている。

 c)手話通訳者による授業のサポート
 聴覚障害のある生徒の授業に入り込み担当教師の授業を通訳している。

 d)インクルージョンを進める上での課題(校長の話)
 インクルージョンは素晴らしいことだが、資源と時間とをたくさん費やすために葛藤がある。けれども努力していかなくてはならない。
 障害のない子どもに費やす時間がとりにくいということでジレンマに陥ることがある。
 身体障害、感覚障害は、インクルージョンを行いやすいが、行動の問題がある子どもたちのインクルージョンは難しい。

(2)リー・コーナー小学校での教育(Lees Corner Elementary School)
a)学校の概要
 フェアーファックス郡学区内の小学校である。
 児童数772人の大規模校である。

b)障害のある子どもの教育の状況
 772人の児童のうち52人が分離型の特殊教育を受けている。また、107人が特殊教育リソースの支援を受けている

障害のある子どもの教育
児童の内訳 人 数
一般教育 720
英才教育 0
特殊教育(分離型) 52
合計 772
特殊教育プログラム
第2言語(英語) 0
英才教育プログラム 71
特殊教育プログラム 107

 障害のある子どもへのインクルーシブなサービスを提供するために、個々の子どもの背景のとなっている多様性と学習へのニーズを尊重し、すべてのクラスで、学習経験を豊かにする遂行モデルを行うことや学習や行動の問題を持つ子どものための洞察を深める支援のためのチームを編成している。また、言語能力の向上に重点をおいた読解方略によって訓練されたボランティアによっての支援が行われている。

c)障害のある子どもへの支援と職員配置

スタッフの職種と人数
職   種 人 数
管理者 2
専門家・教師 43.1
ガイダンス・カウンセラー 1.5
指導アシスタント 13
支援スタッフ 3.5
警備 5.0
(小数部分は、兼務・時間配置のため)

d)インクルージョンの展開の経過と課題 (学校スタッフへのインタビュー)
 通常の教育と特殊教育の先生が共に働くという研修が必要である。Co-teachingを行う中で、特殊教育の先生が通常の学級の中で指導する等、特殊教育の教師と通常の教育の教師が協議し教育の主導権をお互いに取り合うことが必要ある。例えば特殊教育の先生が教科指導を担当、通常の学級の先生は、特定の子どもの観察をするなどを行うことでよりよい指導ができる。通常教育の教師はカリキュラムについて知っている。特殊教育の教師は、専門的な知識とアダプテーション(通常のカリキュラムを障害のある子どもに合わせて適用すること。)の仕方を知っている。この二つを合わせることで効果的な指導ができる。特殊教育は、通常教育の一部であるという認識が働くようになる。以前の特殊教育の教師は、特殊教育対象の子どもにだけ、指導や支援を行ってきたが、近年は、共に協力するようになって、先生自身が通常教育の指導法を学んだ。そのことは、他の子どもにも波及した。特殊教育の先生は、実践の仕方、カリキュラムの豊かさを学んだ。特殊教育がクラス全体の利益を生むことに繋がった。
 障害のある子どもは、まず通常の学級に所属しそこからどのようなサービスを受けるかどうかを検討する。軽度障害は、通常の教育にアダプトできるので通常の学級で対応できる。知的障害、言語障害の場合は、分離型のラーニングラボといっているリソースルームで、集中的な教育を受ける。マスタースケジュールとそれぞれのニーズに対応した指導を組み合わせてカリキュラムを作っている。国語の時は言語の指導を、算数の時は算数というよう特別な指導をマスタープログラムに対応させている。下学年で対応する場合は特に配慮することが必要である。障害の有無に関わらずどの子どももマスタープログラムから離れて指導を受けるようにしているのは偏見をなくすためでもある。マスタープログラムから離れることで偏見を生じさせないような配慮が必要である。

統計資料:州統計:教育庁配布資料
学区統計,学校統計:WebPage他


(文責 松村勘由 中澤惠江 後上鐵夫)
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