通常ページ


小・中学校等における新型コロナウイルス感染症対策の取組への提案

~病弱教育のノウハウを活用して~

国立特別支援教育総合研究所 病弱班
令和2年8月

 「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた学校教育活動等の実施における「学びの保障」の方向性等について(通知)」(令和2年5月15日)では、「社会全体が、長期間にわたり、この新型コロナウイルス感染症とともに生きていかなければならないという認識に立ちつつ、子供たちの健やかな学びを保障することとの両立を図っていくことが重要です。」とされています。

 今後の新しい生活様式において参考にしていただけるよう、
 
 

1.病気の子供への教育の必要性
2.具体的な支援・配慮点
3.偏見や差別の防止
4.学校運営の指針



 について病気の子供たちへの教育(病弱教育)の視点で整理しました。

1.病気の子供への教育の必要性

 児童生徒が新型コロナウイルス感染症に罹患した場合、治療が最優先されますが、濃厚接触者として出席停止となっている場合も含め、健康に十分留意しながら、教育を継続することは重要です。病弱療養児の教育の意義については、病気療養児の教育に関する調査研究協力者会議による「病気療養児の教育について(審議のまとめ)」(平成6年12月14日)において次のように述べられています。

 病気療養児は、長期、短期、頻回の入院等による学習空白によって、学習に遅れが生じたり、回復後においては学業不振となることも多く、病気療養児に対する教育は、このような学習の遅れなどを補完し、学力を補償する上で、もとより重要な意義を有するものであるが、その他に、一般に次のような点について意義があると考えられていることに留意する必要がある。

(一)積極性・自主性・社会性の涵養
 病気療養児は、長期にわたる療養経験から、積極性、自主性、社会性が乏しくなりやすい等の傾向も見られる。このような傾向を防ぎ、健全な成長を促す上でも、病気療養児の教育は重要である。

(二)心理的安定への寄与
 病気療養児は、病気への不安や家族、友人と離れた孤独感などから、心理的に不安定な状態に陥り易く、健康回復への意欲を減退させている場合が多い。病気療養児に対して教育を行うことは、このような児童生徒に生きがいを与え、心理的な安定をもたらし、健康回復への意欲を育てることにつながると考えられる。

(三)病気に対する自己管理能力
 病気療養児の教育は、病気の状態等に配慮しつつ、病気を改善・克服するための知識、技能、態度及び習慣や意欲を培い、病気に対する自己管理能力を育てていくことに有用なものである。

(四)治療上の効果等
 医師、看護婦等の医療関係者の中には、経験的に、学校教育を受けている病気療養児の方が、治療上の効果があがり、退院後の適応もよく、また、再発の頻度も少なく、病気療養児の教育が、健康の回復やその後の生活に大きく寄与することを指摘する者も多い。また、教育の実施は、病気療養児の療養生活環境の質(QOL(クオリティ・オブ・ライフ))の向上にも資するものである。

※病気療養中も教育が重要であることを多くの学校関係者や医療関係者が理解し、相互に連携しながら適切に対応することが望まれます。

2.具体的な支援・配慮点

 感染症に罹患すると、入院中はもちろん経過観察中も隔離され、多くの規制や制限の中で生活することとなります。そのため、様々な喪失体験や病状の変化などへの不安を可能な限り軽減し、主体的に生活を営むための支援が必要となります。特に学齢期は、学校生活に関わる問題が多くなります。入院等のため学校に登校できないことで、仲間から取り残されるといった恐怖感や不安感が高まります。また、経験不足に陥ったり、仲間関係や社会適応の点で課題が生じたりすることもあります。これらについて、医療関係者、保護者、教育関係者などがお互いに連携を密に図り、支援していくことが重要です。

■ICTを活用した授業への参加(遠隔教育等)

 病弱教育ではこれまで、感染症への配慮を必要としている子供や病室のベッドサイドで学習をしている子供にICTを活用した授業や学習保障、遠隔教育に取り組んできました。授業として参加することが難しくても、教室の様子や仲間の顔が見られることで安心感を得ることができ、快復後のスムーズな学校生活への復帰に繋がります。

 

【病弱教育で実際に行われている指導方法の工夫等】

  • リモート顕微鏡によるメダカの観察
  • 遠足・校外学習の病室への生中継
  • 本校と、病室や病院内の分教室をつないだ集会活動や合奏
  • 地元の学校との復学にむけた交流および共同学習 等


 詳細な情報は、下記の入院児童生徒等への教育保障体制整備事業成果報告書等を参考にしてください。また、各学校や教育委員会のホームページにも、これまでの取り組みが掲載されている場合があります。

◇平成30年度 入院児童生徒等への教育保障体制整備事業 成果報告書
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/main/006/h29/1409797_00001.htm

 これらの事例の多くは、入院している児童生徒への実践ですが、 配慮点等参考にできる部分があります。

 

【ICTを活用した遠隔教育における配慮点の例】

  • 黒板と教師、黒板左半分と右半分、教室全体と黒板など、複数のカメラ(端末)で撮影し、十分な情報量での配信を行う。〔配信側〕
  • 黒板が撮影される範囲を磁石などでマークし、板書の範囲を工夫する。〔配信側〕
  • 病室での授業では他の患者等への配慮でイヤホンを使用する。〔受信側〕
  • 回線トラブル等への対応を準備しておく。
    →映像状態が悪いときには、音声のみで継続。
    →音声が悪い時には、チャット機能や手書きボードの利用。

参考資料:平成29年度研究開発実施報告書〈第3年次〉
千葉県立四街道特別支援学校 平成30年3月

■子供のこころのケア

 今回のコロナ禍では社会全体が大きく変化し、子供も大きなストレスを受けています。子供は心と体の発達の途上であるため、何らかのストレスに対して情緒面の問題のみ、行動面の問題のみではなく、子供を取り巻く日常生活の様々なところに兆候が現れます。周囲に感染が広がったり、濃厚接触者となったりした場合には、自分も誰かに感染させたのではないか、と不安に感じる子供もいると思われます。
 また、本人だけでなく両親や兄弟など家族に感染者が出た場合も、相当な心理的な負荷がかかると想像できます。これらの対応に、特別支援学校の自立活動での「心理的な安定」への取り組みや、病弱教育における「精神疾患及び心身症(こころの病気)のある児童生徒への教育的支援・配慮」が役立つと思われます。

 

【具体的な支援・配慮の事例(不安・悩み)】

  • イライラすること等、感情を言葉にできるようにする。
  • 不安や困難さを具体的に相談して共有していく。
  • 学校のルール・日程、活動内容を板書や手元で視覚的に提示する。


「精神疾患及び心身症(こころの病気)のある児童生徒への教育的支援・配慮」について詳しくは、下記のリーフレットを御覧ください。

◇Co-MaMe(精神疾患及び心身症のある児童生徒への連続性のある多相的多階層支援)
 https://www.nise.go.jp/nc/wysiwyg/file/download/1/3770

3.偏見や差別の防止

 在宅療養をしている子供たちの中には、入院や手術の計画が変更になっている子供や、これまで以上に感染症への注意が必要とされることで登校が難しくなっている子供がいます。その子供たちには、より一層の丁寧な対応が求められています。
 また、兄弟姉妹や保護者など家族が病気療養をしている場合にも、児童生徒は精神的に不安定な状態になることが多いと言われています。「新型コロナウイルス感染症の感染者等に対する偏見や差別の防止等の徹底について(通知)」(令和2年4月16日)でも示されているように、特に感染症などの場合には、周囲からの偏見や差別にも十分注意する必要があります。


「新型コロナウイルスの3つの顔を知ろう!」日本赤十字社

「新型コロナウイルスの3つの顔を知ろう!」日本赤十字社
http://www.jrc.or.jp/activity/saigai/news/200326_006124.html

4.学校運営の指針

 文部科学省では、「新型コロナウイルス感染症に対応した持続的な学校運営のためのガイドライン」(令和2年6月5日事務次官通知)において、持続的に児童生徒等の教育を受ける権利を保障していくため、学校における感染及びその拡大のリスクを可能な限り低減した上で、学校運営を継続していくための学校運営の指針を示しました。医療的ケアを必要とする児童生徒等や基礎疾患等がある児童生徒等への対応については、同ガイドラインの考え方に基づき、学校の衛生管理に関するより具体的な事項について学校の参考となるよう作成された「学校における新型コロナウイルス感染症に関する衛生管理マニュアル~「学校の新しい生活様式」~」に具体的に記載されています。

 ◇学校における新型コロナウイルス感染症に関する衛生管理マニュアル
~「学校の新しい生活様式」~(2020.6.16 Ver.2)
https://www.mext.go.jp/a_menu/coronavirus/mext_00029.html

 令和2年6月16日時点での最新の知見に基づき作成されていますが、今後新たな情報や知見が得られた場合には随時見直しを行うとのことです。上記マニュアル以外にも、各種の情報が日々更新されています。常に最新の情報であるか各自確認をお願いいたします。


(参考)出席停止等の取扱いについて

指導要録上、「出席停止・忌引等の日数」として記録するもの 学校保健安全法第19条の規定に基づく出席停止
  • 感染が判明した者
  • 感染者の濃厚接触者に特定された者
  • 発熱等の風邪症状がみられる者
  • (レベル2や3の地域において)同居の家族に発熱等の風邪の症状がみられる者
「非常変災等児童生徒又は保護者の責任に帰すことができない事由で欠席した場合などで、校長が出席しなくてもよいと認めた日」として扱う場合
  • 医療的ケア児や基礎疾患児について、登校すべきでないと判断された場合
  • 感染が不安で休ませたいと相談のあった児童生徒等について、感染経路の分からない患者が急激に増えている地域であるなどにより、感染の可能性が高まっていると保護者が考えるに合理的な理由があると校長が判断する場合

学校における新型コロナウイルス感染症に関する衛生管理マニュアル~「学校の新しい生活様式」~(2020.6.16 Ver.2)より抜粋