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本文 II わが国の特殊教育の動向と国際機関における取り組みについて-1
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II わが国の特殊教育の動向と国際機関における取り組みについて
1.はじめに
 この章では、主要国の特別な教育的ニーズを有する子どもの指導に関する調査研究の背景となる、わが国の特殊教育の動向と国際機関における特殊教育に関する取り組みの動向について概説する。
 
2.わが国の特殊教育に関する動向について
 近年、わが国の特殊教育の在り方に大きな影響を与える重要な変革が行われている。ここでは、これらのわが国における特殊教育に関する変革の動向について述べる。

1)中央省庁における変革
 平成13年1月に、行政改革の一環として中央省庁の再編が行われ、文部省と科学技術庁が統合され、文部科学省となった。そして、障害のある児童生徒の教育を担当する課であった「特殊教育課」は、「特別支援教育課」へと名称が変更された。
 この名称変更の理由は、次のように説明されている5)。「近年、盲・聾・養護学校及び特殊学級以外の通常の学級において、学習障害児や注意欠陥/多動性障害等心身上何らかの原因により学習が困難な児童生徒に対して教育的支援を行うことが求められている。文部省特殊教育課では、このような状況を踏まえ、特殊教育の中で培われたノウハウを活かし、通級による指導や学習障害児への指導等を特殊教育と一体化して積極的に取り組んでいくこととし、平成13年1月の文部科学省の再編に当たり、特殊教育課の名称を『特別支援教育課』に変更することとした。」
 そして、「特殊教育」を「盲・聾・養護学校及び特殊学級における教育(指導の基礎を場に置く考え方)」とし、一方、「特別支援教育」を「心身上何らかの理由により特別な教育的支援を必要とする子どもに対する教育(指導の基礎を児童生徒の特別な教育的ニーズに置く考え方)」としている5)
 このような障害のある児童生徒の教育を担当するセクションの名称の変更は、従来の特殊教育の概念よりも広い「特別な教育的支援を必要とする子どもに対する教育」をめざす方向性を示したものであるといえよう。
 そして、このような中央省庁における組織及び機構の変革は、今後のわが国の特殊教育の在り方に大きな影響を及ぼすものであると考えられる。

2)学習指導要領の改訂
 平成8年7月の中央教育審議会第一次答申1)では、これからの学校教育の在り方として、『ゆとり』の中で自ら学び自ら考える力などの『生きる力』の育成を基本とし、教育内容を厳選して、基礎・基本の徹底を図ること、横断的・総合的な指導を推進するため「総合的な学習の時間」を設けること、完全学校週5日制を導入することなどが提言された。
 そして、平成8年8月には、文部大臣から教育課程審議会に対して、「幼稚園、小学校、中学校、高等学校、盲学校、聾学校及び養護学校の教育課程の基準の改善について」の諮問が行われ、教育課程審議会では、中央教育審議会の第一次答申等を踏まえて、約2年間にわたる審議が行われた。特殊教育については、特殊教育の改善・充実に関する調査研究協力者会議の第一次及び第二次報告を踏まえて検討が行われた。そして、平成10年7月には、幼・小・中・高・盲・聾・養護学校について、同時に答申が行われた。
 この答申では、完全学校週5日制の下、『ゆとり』の中で「特色ある教育」を展開し、幼児児童生徒に『生きる力』を育成することを基本的なねらいとして、次の方針に基づき教育課程の基準を改訂することが提言された3)

(1)豊かな人間性や社会性、国際社会に生きる日本人としての自覚を育成すること。
(2)自ら学び、自ら考える力を育成すること。
(3)ゆとりのある教育活動を展開する中で、基礎・基本の確実な定着を図り、個性を生かす教育を充実すること。
(4)学校が創意工夫を生かし特色ある教育、特色ある学校作りを進めること。

 さらに、この答申では、盲学校、聾学校及び養護学校については、障害のある幼児児童生徒が自己のもつ能力や可能性を最大限に伸ばし、自立し、社会参加するための基盤となる『生きる力』を培うことをねらいとして、次の五つの視点から教育課程を改善することが提言された3)

a 幼稚園、小学校、中学校及び高等学校の教育課程の基準の改善に準じた改善
b 障害の重度・重複化、多様化への対応
c 早期からの適切な教育的対応
d 職業的な自立の推進
e 軽度の障害のある児童生徒への対応

 この答申を踏まえて、学校教育法施行規則が改正されるとともに、平成10年12月に幼稚園教育要領、小学校学習指導要領及び中学校学習指導要領が改訂され、平成11年3月に高等学校学習指導要領、盲学校、聾学校及び養護学校の幼稚部数育要領、小学部・中学部学習指導要領、高等部学習指導要領の改定が行われた1)
 この新しい盲学校、聾学校及び養護学校の学習指導要領は、幼稚園、小学校、中学校及び高等学校の新学習指導要領等の実施時期に合わせて、幼稚部については平成12年度から、小学部と中学部については平成14年度から全面実施され、高等部については平成15年度から学年進行により段階的に実施されることとなっている。
 今後、わが国の特殊教育に関する取り組みは、この新学習指導要領に基づき、さらなる改善・充実をめざしていくこととなる。

3)「21世紀の特殊教育の在り方に関する調査研究協力者会議」最終報告書
 平成12年5月に設置された「21世紀の特殊教育の在り方に関する調査研究協力者会議」は、その最終報告書を平成13年1月に発表している。この最終報告書に盛られた内容は、わが国の今後の特殊教育の在り方に大きな影響を与えると考えられる。
 この最終報告書では、今後の特殊教育の在り方についての基本的な考え方として、次のことを挙げている6)

(1)ノーマライゼーションの進展に向け、障害のある児童生徒等の自立と社会参加を社会全体として、生涯にわたって支援する。
(2)教育、福祉、医療、労働等が一体となって乳幼児期から学校卒業まで障害のある子ども及びその保護者等に対する相談及び支援を行う体制を整備する。
(3)障害の重度・重複化や多様化を踏まえ、盲・聾・養護学校等における教育を充実するとともに、通常の学級の特別な教育的支援を必要とする児童生徒等に積極的に対応する。
(4)児童生徒の特別な教育的ニーズを把握し、必要な教育的支援を行うため、就学指導の在り方を改善する。

 そして、この最終報告書では、これらの基本的な考え方を踏まえて、次の事項について提言が行われている6)

(1)就学指導の在り方の改善について
(2)特別な教育的支援を必要とする児童生徒等への対応について
(3)特殊教育の改善・充実のための条件整備について

 このように、この最終報告書においては、「学級の特別な教育的支援を必要とする児童生徒」あるいは「児童生徒の特別な教育的ニーズ」という文言が使われており、欧米で使われるようになってきた「特別な教育的ニーズ」と同様な考え方が導入されていることが目を引く点となっている。
 この最終報告書が示しているわが国の特殊教育の方向性は、今後のわが国の特殊教育に関する取り組みに大きな影響を与えていくと考えられる。

 
3.国際機関における特殊教育に関する取り組みの動向について
 国際機関においても、近年、特殊教育に関する重要な取り組みが行われている。ここでは、それらの国際機関における近年の重要な取り組みについて述べる。

1)国連の取り組み
 国連は、1989年に、「児童の権利に関する条約(Convention on the Rights of the Child)」を採択した。この条約の第23条では、障害のある子どもについて可能な限り社会への統合が行われること及び教育・訓練の機会を利用できるようにすることとしている1)
 また、1993年12月に、国運第48回総会において、決議「障害をもつ人々の機会均等化に関する基準原則(Standard Rules on the Equalization of Opportunities for Persons with Disabilities)」が採択された。この決議では、障害のある子ども、青年、成人について、初等教育、中等教育、中等教育終了後の教育における統合された場での教育の機会均等の原則を認識すべきであるとしている1)

2)ユネスコの取り組み
 1994年6月に、スペインのサラマンカで、「特別なニーズ教育に関する世界会議:アクセスと質(World Conference on Special Needs Education:Access and Quality)」が開催された。この会議では、「特別なニーズ教育における原則、政策、実践に関するサラマンカ声明と行動の枠組み(Salamanca Statement on Principles,Policy and Practice in Special Needs Education and a Framework for Action)」が採択された。そして、世界のすべての子どもを学校にインクルージョンし、また、それを可能にするために学校制度の改革をめざすことが目標とされた1)。この「サラマンカ宣言」は、その後の世界の特殊教育の在り方に多大な影響を与えているということができる。
 また、ユネスコでは、1997年に、教育的分類の国際標準(ISCED)の改訂を行っている9)。旧分類では、特殊教育は「特別な学校において提供される教育」として定義されていた。しかし、ISCEDの新版(ISCED−97)では、特殊教育を、「特別なニ−ズ教育(special needs education):特別な教育的ニーズ(special educational needs)に対応するためにデザインされた教育的な介入及び支援」と定義している。すなわち、「特殊教育(special education)」という用語の代わりに、「特別なニーズ教育(special needs education)」という用語を使っている。このような用語の定義の変化も、特殊教育の在り方に大きく影響を及ぼすものと考えられる。

3)OECDの取り組み
 経済協力開発機構(OECD)では、1995年に、OECD加盟国における障害のある児童生徒及び不利な立場にある児童生徒のための政策を比較可能にすることをねらいとした包括的なデータ集を刊行した7)
 上述したように、特殊教育の領域において、国際的に使用される用語についての変化が見られているが、「特別なニーズ教育」という用語が広く国際的に利用されるようになるに伴い、各国の比較に関しては新たな課題が生じてきている。
 すなわち、各国によって「特別なニーズ教育」が指し示しているものに大きな幅があるため、特殊教育に関する取り組みについて国際比較を行う場合に混乱が生じる可能性がでてきている。「特別な教育的ニーズ」として、伝統的に使用されてきた障害のある子どものカテゴリーを指している国もあれば、より広く、学習困難や不利な立場の児童生徒などを含めている国もある。また、障害及び学習困難の定義にもそれぞれの国で大きな幅があることも比較を困難にしている。そのため、このような「特別なニーズ教育」のデータを各国間で比較することは困難であることが明かとなってきた。
 このような状況を背景として、OECDでは、各国間で比較可能な資料を得るため、「利用可能なリソース(resources)に基づく供給側のアプローチ(supply side approach)」を提唱している。このアプローチでは、「特別な教育的ニーズを有する者は、彼らの教育を支援するために提供される公的あるいは私的な“追加的な(additional)”リソースによって定義される」としている8)。ここでいう「追加的なリソース(additional resources)」とは、一般的に児童生徒に利用可能となっているリソースに加えて利用可能にされるものを指しており、それには、人的なリソース(personnel resources)、物的なリソース(material resources)、財政的なリソース(financial resources)があるとしている8)
 このOECDのアプローチは、各国の特殊教育について比較可能な指標を得るための取り組みとして注目される。
また、このアプローチでは、基本的に従来の障害カテゴリーによる捉え方ではなく、提供される教育的サービスの観点から特別なニーズ教育を捉えていこうとしているところも注目される点である。このアプローチは、今後の特殊教育の取り組みに関する国際的な共通理解を促進する上で、大きな影響力をもっていると思われる。

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