国立特別支援教育総合研究所メールマガジン 第121号
メールマガジン
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国立特別支援教育総合研究所(NISE)メールマガジン
第121号(平成29年4月号)
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■目次
【新年度を迎えて】
【平成29年度の主な年間行事予定について】
【お知らせ】
・「発達障害教育推進センター」がスタートします
・「ブラインドサッカー体験会 in NISE」の開催について
・平成29年度に実施する各指導者研究協議会について(照会開始)
・特総研ジャーナル第6号及びNISE Bulletin Vol.16の刊行について
・平成28年度「辻村賞」授賞者・記念講演会の開催(終了報告)
【NISEトピックス】
・平成29年度の研究活動について
【海外情報の紹介】
・イタリアのボルツァーノ県の学校訪問
【研究紹介】
・発達障害のある子どもの指導の場・支援の実態と今後の指導の在り方に関
する研究-通級による指導等に関する調査をもとに-(平成26~27年度)
【NISEダイアリー】
【特別支援教育関連情報】
・国立特別支援教育総合研究所「平成28年度第2回高等学校における通級に
よる指導に関する研修会」の開催【終了報告】
【研修員だより】
【役員・研究職員の異動について】
【アンケートのお願い】
【編集後記】
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【1】新年度を迎えて
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さて、私ごとになりますが、新年度を迎え、改めて本研究所の理事長とし
ての仕事を続けることになりました。今後とも、これまで同様、よろしくお
願い申し上げます。
平成29年度は、平成32年度までの第4期中期目標期間の二年目に当たりま
す。昨年の発達障害者支援法の一部改正等を踏まえるとともに、発達障害者
を取り巻く状況の変化に応じて、より一層、発達障害の理解促進、個々の子
どもに応じた教育等の推進、広く情報発信に努めるため、発達障害教育情報
センターを発達障害教育推進センターと改め、発達障害教育の進展に寄与す
ることとしています。
平成30年度からは、高等学校における通級による指導の運用も始まります。
こうした中で、発達障害情報・支援センター等、他の機関との連携協力にも
努め、それぞれの子どもがもっている力を最大限に発揮できるよう、種々の
事業を進めていく予定です。
また、平成28年度に開設したインクルーシブ教育システム推進センターに
おいても、本年度からは、各都道府県、政令指定都市等の教育委員会や学校
の実情に応じて、長期派遣の地域実践研究員に加え、短期派遣の地域実践研
究員制度も設けました。平成29年度は、両方合わせて、13名の地域実践研究
員が、本研究所において、それぞれの地域の実情に応じたテーマの基、研究
所の職員と一緒に研究活動を進めることとしています。
さらに、昨年度から始まった免許法認定通信教育についても、この四月か
らは、視覚障害教育に加え、新たに聴覚障害教育の講義を配信します。平成
32年度を目途とした、特別支援学校における当該種別の免許状取得の目標値
達成に貢献したいと考えています。
このように、研究活動・研修事業を始めとして、情報発信等についても、
様々な活動を企画し実践していく所存です。
我が国における特別支援教育の推進に、研究所としても応分の努力を進め
ていきます。
本年度も、よろしくご協力の程、お願い申し上げます。
独立行政法人国立特別支援教育総合研究所
理事長 宍戸 和成
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【2】平成29年度の主な年間行事予定について
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本研究所が本年度に実施する主な行事予定は、下記の通りです。各種行事
への参加をご検討いただく際に、ご参考にしていただければ幸いです。
なお、専門研修および研究協議会は、各都道府県教育委員会等より推薦を
受けた教職員が対象となりますので、予めご了承ください。
4月22日 ブラインドサッカー体験会 in NISE
5月8~9日 第一回高等学校における通級による指導に関わる指導者研究
協議会
5月15日 第一期特別支援教育専門研修(~7月14日)
6月28日 支援機器等教材に関する地域展示会(大分県大分市)
7月5日 支援機器等教材に関する地域展示会(静岡県掛川市)
7月20~21日 特別支援教育におけるICT活用に関わる指導者研究協議会
7月27日 特別支援学校寄宿舎指導実践協議会
7月28日 発達障害教育実践セミナー(一橋講堂、東京都)
8月18日 特別支援学校「体育・スポーツ」実践指導者協議会
8月28~29日 第二回高等学校における通級による指導に関わる指導者研究
協議会
9月4日 第二期特別支援教育専門研修(~11月8日)
10月6日 支援機器等教材に関する地域展示会(岩手県花巻市)
11月11日 研究所公開
11月16~17日 交流及び共同学習推進指導者研究協議会
11月中~下旬 世界自閉症啓発デー2017 in 横須賀
11月24~25日 支援機器等教材に関する地域展示会(青森県青森市)
[翌年]
1月9~10日 第三回高等学校における通級による指導に関わる指導者研究
協議会
1月16日 第三期特別支援教育専門研修(~3月20日)
1月20日 NISE特別支援教育国際シンポジウム(一橋講堂、東京都)
2月16~17日 国立特別支援教育総合研究所セミナー(国立オリンピック記
念青少年総合センター、東京都)
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【3】お知らせ
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●「発達障害教育推進センター」がスタートします
発達障害者支援法の改正や発達障害に関する社会における関心の高まり、
早期支援の取組からライフステージを通した一貫した支援の重要性など、発
達障害に関する理解啓発や支援の充実等の必要性の高まりを踏まえ、発達障
害教育情報センターは、平成29年4月より「発達障害教育推進センター」に
変わります。
「発達障害教育推進センター」では、発達障害教育に関する最新の情報に
ついて、インターネットを通じて幅広く国民に提供し、理解啓発を一層推進
するとともに、教育現場で必要な基本的な知識と指導・支援に関する具体的
な情報を提供します。また、発達障害教育に関する研究成果の普及や教育実
践セミナーの開催、教育センター等との共催による地域理解啓発事業等の実
施を通じて、発達障害教育に関する理解推進と実践的な指導力の向上を図り
ます。
●「ブラインドサッカー体験会 in NISE」の開催について
本研究所では、4月22日(土)に東京パラリンピック2020の正式種目である
ブラインドサッカーの体験会を開催します。
体験会の中で実際にアイマスクを着用して体験することで、視覚障害のあ
る方への理解だけでなく、コミュニケーションやチームワーク、ボランティ
ア精神等の大切さを体感できます。
また、見学のみの参加も可能です。是非、お気軽にご参加ください。
◇内容:ブラインドサッカーの体験会及びチーム対抗ミニゲーム
◇日時:平成29年4月22日(土)[計3回 開催]
(1)10:45~11:55 (2)13:00~14:10 (3)14:20~15:30
◇費用:無料 (ただし、事前申込が必要です)
◇対象:小学生以上ならどなたでもご参加頂けます。
◇定員:各30名
◇申込方法:Webサイトもしくは、メールにて申込可能です。
[申込用Webサイト]
https://www.nise.go.jp/limesurvey/index.php?sid=51945&lang=ja
◇場所:国立特別支援教育総合研究所 体育館(駐車場あり)
◇備考:運動できる服装や室内用運動靴をご持参ください。
◇協力:日本ブラインドサッカー協会
詳細につきましては、本研究所Webサイトをご覧ください。
○「ブラインドサッカー体験会 in NISE」の詳細はこちら→
●平成29年度に実施する各指導者研究協議会について(照会開始)
平成29年度に本研究所が実施する下記の指導者研究協議会の受講候補者の
推薦について、都道府県教育委員会等に照会を行っています。
なお、推薦に係る実施要項・推薦様式は、Webサイトよりダウンロードで
きます。
◆平成29年度特別支援教育におけるICT活用に関わる指導者研究協議会
期日 平成29年7月20日(木)~21日(金)の2日間
募集人員 70名
◆平成29年度交流及び共同学習推進指導者研究協議会
期日 平成29年11月16日(木)~17日(金)の2日間
募集人員 70名
○平成29年度国立特別支援教育総合研究所研修事業計画はこちら→
●特総研ジャーナル第6号及びNISE Bulletin Vol.16の刊行について
この度、本研究所の平成28年度における諸活動の成果等をまとめた「国立
特別支援教育総合研究所ジャーナル(特総研ジャーナル)第6号」、及び英
文でまとめた「NISE Bulletin Vol.16」を刊行し、それぞれ本研究所のWeb
サイトに掲載しました。
特総研ジャーナル第6号では、本研究所が平成28年度に実施した研究の概
要、調査研究報告、諸外国における障害のある子どもの教育に関する状況調
査報告、国際会議・外国調査等の報告、学会等参加報告、事業報告を紹介し
ています。
また、NISE Bulletin Vol.16では、本研究所が平成28年度に実施した研究
の概要、本研究所の研究紀要に掲載されている論文の要旨、NISE特別支援教
育国際シンポジウムの事業報告や、文部科学省特別支援教育課による日本の
特別支援教育の政策動向等を英文で紹介しています。
○特総研ジャーナル第6号はこちら→
○NISE Bulletin Vol.16はこちら→
●平成28年度「辻村賞」授賞者・記念講演会の開催(終了報告)
本研究所では、3月1日(水)に平成28年度「辻村賞」の受賞者(個人の部)
である齋藤佐和氏による記念講演会を開催しました。
齋藤佐和氏(筑波大学名誉教授)は、長年、大学において特別支援教育
(聾教育)の教鞭を執り、多数の優秀な人材輩出に努める一方、研究者とし
て多数の優れた学術論文・著書を発表されています。社会活動としても中央
教育審議会の委員として、我が国の特別支援教育の在り方と方向性を社会に
示す重要な役割を果たす等、特別支援教育の推進・発展に貢献した功績が高
く評価されました。
なお、「辻村賞」は、本研究所の初代所長であり、我が国の特別支援教育
の第一人者として、その振興・発展のために尽力された故辻村泰男先生のご
遺徳を永く記念するため、特別支援教育の領域において、特に顕著な功績の
あった個人あるいは団体や、特に優秀な研究を行った個人あるいは団体に対
し、授与しています。
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【4】NISEトピックス
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●平成29年度の研究活動について
研究企画部 総合企画調整担当
本年度は、基幹研究(横断的研究)2件、基幹研究(障害種別研究)4件
(うち2件は新規)、地域実践研究4件、共同研究1件、予備的研究2件
(いずれも新規)を実施します。
◆基幹研究(横断的研究)2課題
1)我が国におけるインクルーシブ教育システム構築に関する総合的研究-
インクルーシブ教育システム構築の評価指標(試案)の作成-(平成28~29
年度)
2)特別支援教育における教育課程に関する総合的研究-通常の学級と通級
による指導の学びの連続性に焦点を当てて-(平成28~29年度)
◆基幹研究(障害種別研究)4課題
1) 視覚障害を伴う重複障害の児童生徒等の指導に関する研究-特別支援学
校(視覚障害)における指導を中心に-(平成29~30年度)
2) 精神疾患及び心身症のある児童生徒の教育的支援・配慮に関する研究
(平成29~30年度)
3) 発達障害等のある生徒の実態に応じた高等学校における通級による指導
の在り方に関する研究―導入段階における課題の検討―(平成28~29年度)
4) 特別支援学校(知的障害)に在籍する自閉症のある幼児児童生徒の実態
の把握と指導に関する研究-目標のつながりを重視した指導の検討-(平成
28~29年度)
◆地域実践研究4課題
1)メインテーマ1:インクルーシブ教育システム構築に向けた体制整備に
関する研究
[サブテーマ]
(1)地域におけるインクルーシブ教育システム構築に関する研究(平成28
~29年度)
(2)インクルーシブ教育システム構築に向けた研修に関する研究(平成28
~29年度)
2)メインテーマ2:インクルーシブ教育システム構築に向けた特別支援教
育に関する実際的研究
[サブテーマ]
(3)交流及び共同学習の推進に関する研究(平成28~29年度)
(4)教材教具の活用と評価に関する研究(平成28~29年度)
◆共同研究1課題
1)インクルーシブ教育場面における知的障害児の指導内容・方法の国際比
較-フィンランド、スウェーデンと日本の比較から-(平成28~29年度)
◆予備的研究(単年度)2課題
1)聴覚障害教育におけるセンター的機能の充実に関する調査研究(平成29
年度)
2)中学校における言語障害のある生徒への指導の充実に関する研究(平成
29年度)
これら以外にも科学研究費補助金などの外部資金研究等を実施します。こ
れらの研究のテーマや内容などは随時、本メルマガで紹介していきます。
○研究区分についての説明はこちら→
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【5】海外情報の紹介
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●イタリアのボルツァーノ県の学校訪問
土井 幸輝(研究企画部 主任研究員)
本研究所のインクルーシブ教育システム研究班では、我が国におけるイン
クルーシブ教育システム構築の成果や課題を可視化する評価指標(試案)を
作成し、その検証を行うことを通して、我が国におけるインクルーシブ教育
システム構築の進展に寄与することを目指した研究を平成28年から2か年で
実施しています。本研究では、評価指標(試案)を作成する上で一助となる
情報を得るため、インクルーシブ教育を推進している諸外国における障害の
ある児童生徒への教育及び支援の実際、インクルーシブ教育システムの評価
等についての情報を収集するための実地調査を行っております。本稿では、
筆者が担当したイタリアの幼稚園や小学校における特別支援教育の専門性を
有した支援教員による指導・支援の状況、教育委員会や地域保健センターに
よるインクルーシブ教育を支える取組の状況、教育委員会におけるインクル
ーシブ教育システムの評価の状況についても明らかにするために行った聞き
取り調査の概要をご紹介します。筆者は、2017年1月31日から2月3日の間
でイタリア北部の都市であるボルツァーノ県の幼稚園や小学校、地域保健セ
ンター、県教育委員会を訪問することができました。
幼稚園や小学校における障害児の受け入れにおいては、支援教師が中心的
な役割を担っており、入園入学前の段階から保護者や幼児児童と信頼関係を
築くことに注力されていました。イタリアの特徴である保護者、教育委員会、
学校、地域保健機関が連携する支援体制をうまく機能させるために、学級協
議会(日本におけるケース会議に相当)での協議を経て作成する個別教育計
画を着実に実行し、学級協議会では誰もが理解できるように専門的な言葉を
使わないようにすることを大切にしていることがわかりました。
地域保健センターでは、担任、支援教員、支援員、介助員、小児神経科等
の医師、リハビリセンターの専門家、必要に応じて教育委員会や社会福祉課
等の担当者と協力しながら、学級協議会で個別教育計画の中身も協議し、作
成及び実行を支援されていることがわかりました。
教育委員会では、大学と連携した校長や管理職向けの研修が実施されてい
ることや次年度に向けて担任向けの研修(6~8時間)を企画されていると
のことでした。また、インクルーシブ教育システムの評価に関しては、外部
評価の導入が検討されていることがわかりました。
以上簡潔ですが、読者の皆様にイタリアボルツァーノ県のインクルーシブ
教育の実地調査の一端をご紹介させていただきました。
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【6】研究紹介
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●発達障害のある子どもの指導の場・支援の実態と今後の指導の在り方に関
する研究-通級による指導等に関する調査をもとに-(平成26~27年度)
伊藤 由美(情報・支援部 主任研究員)
文部科学省の調査によれば、発達障害のある児童生徒を対象とする通級指
導教室は全国的に設置数が増加しています。しかし、各地域における設置や
運用の状況に関する全国的な調査はこれまで実施されていませんでした。本
研究では、全国1,739の市町村教育委員会を対象に、発達障害のある児童生
徒の指導・支援をめぐる各地域の状況について実態調査を行い、通級指導教
室の設置状況や発達障害のある児童生徒の指導・支援等の現状と課題につい
て明らかにしました。
1.発達障害のある児童生徒の指導の場としての通級指導教室
発達障害の診断・判断又は可能性のある児童生徒のうち、通級による指導
を受けている小学生の割合は13.4%、中学生は6.2%でした。多くの市町村
教育委員会で通級指導教室の設置が十分ではないと考えており、必要として
いる児童生徒数に見合う教室の設置が急務となっています。各校に通級指導
教室を設置することが難しい場合は、巡回による指導の工夫により、児童生
徒が在籍する学校で指導を受けられます。通級の担当者と在籍学級の担任と
の密な連携を図り、在籍校職員への理解啓発の促進なども考えられます。
2.通常の学級における発達障害のある児童生徒の指導・支援
発達障害のある児童生徒の指導全般の課題として、多くの市町村教育委員
会が「すべての教員の指導力向上」が最も重要と回答しました。今後、校内
における研修会等の実施、相談や情報交換のしやすい職員集団づくりなどを
通し、学校全体の指導力向上に取り組むことが期待されます。
3.発達障害のある児童生徒の指導・支援を支えるシステム
発達障害のある児童生徒への適切な指導や必要な支援を行うためには、学
校を支えるシステムも必要です。特別支援教育担当の指導主事の配置がない
市町村においては、専門職と通級の担当者がチームを組んでシステムを構築
している例もありました。現状において活用できる資源を見直し、工夫し、
活用していくことが重要だということが確認されました。
発達障害のある子どもの指導・支援においては,通常の学級において子ど
ものニーズにあった授業づくりを工夫すると同時に、障害特性に応じた専門
的な指導を受けられる機会を確保することが必要です。
掲載できなかった市町の取り組みについては報告書をご覧ください。
○本研究の研究成果サマリーはこちら→
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【7】NISEダイアリー
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「出来上がるな!」
宍戸 和成(国立特別支援教育総合研究所理事長)
私は、大学卒業後、聾学校で13年間勤めた。小学部担任として、先輩教師
や保護者、子どもたちから様々なことを学んだ。その中で、時々頭に浮かぶ
のが、標記の言葉である。折に触れ、先輩教師から投げ掛けられたものだと
思う。私が生意気で先輩に楯突く故、こう言われたのだろうと推測される方
もおられるかもしれないが、そんなことはなかったと思う。教員仲間での17
時以降の聾教育に関わる議論の席でも、東北地方出身故か、話すことが苦手
で、どちらかと言うと、黙って聞いている方が多かったと思う。それでは、
この言葉を耳にしたのはどんな場面だったのかと、当時を振り返ってみた。
酒に酔った先輩が、うつむき加減に自分自身に向けて、「出来上がるな!」、
「出来上がっちゃいけない。」と戒めるように言っていたような気がする。
勿論、酒が入っていない席で、「出来上がっちゃいけないよ。」と優しい口
調で諭されたこともある。結局、「出来上がるな!」という言葉だけが、今、
頭に鮮明に残っている。
それでは、「出来上がった」とは、どんな状況を指すのだろうか。当時は、
理詰めで考えることはなかったように思う。「出来上がってはいけないのだ」
という、言葉(音声)だけが頭の中を巡っていたような気がする。
学校現場から行政へ。様々な人と関わりながら、与えられた仕事に邁進し
てきた。今は、特総研で職員をまとめる仕事をしている。そんな中で、改め
て、この「出来上がるな!」という言葉を自分なりに考えてみたい。
先輩が、折に触れ、口にしていた「出来上がるな!」は、何を言いたかっ
たのかと。単純に考えれば、「威張るな!」とか、「やたらと人に命令した
りするな!」というように、態度や口調を想像するが、それだけではないよ
うに思う。私は、「人から学ぶ姿勢を忘れるな!」と考えたい。特別支援教
育は、まだまだ分からないことが多い分野である。一部分を知って、全体を
知ったように思わないことが大切である。そのためには、人の話に耳を傾け
ることである。人に訊ね、その回答から真摯に学ぶことである。子どもの片
言に耳を傾けること、同僚や保護者の何気ない一言を受け止めることである。
以前、このコーナーで「子どもから学ぶ」や「無知の知」という言葉につ
いて触れたこともある。特別支援教育は奥が深い。一人一人の子どもの心も
直截には把握できない。だから、あれやこれやと想像することが必要である。
「分かったと思うなよ。」、「分からないことが沢山身の回りにあるはず
だよ。」の気持ちを大切にし、分からないことを一つ一つ拾い集めて、皆で
考えていきたいものだと思う。
「出来上がるな!」は、つい怠けがちな私への戒めの言葉である。仕事を
している間は、これを肝に銘じて努力していきたいと思う。
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【8】特別支援教育関連情報
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●国立特別支援教育総合研究所「平成28年度第2回高等学校における通級に
よる指導に関する研修会」の開催【終了報告】
文部科学省及び本研究所では、平成30年度から実施される高等学校におけ
る「通級による指導」の円滑な実施に向けて、昨年11月に開催の行政説明会
・モデル校による成果報告会及び研修会に引き続き、3月23日文部科学省第
二講堂において、第2回の研修会を開催しました。
内容は、「高等学校における通級による指導の導入に向けての準備」につ
いての行政説明、本研究所からの関係講義と、取組紹介「高等学校における
通級による指導の開始に向けた準備の実際」と題し3つの自治体等からのご
発表でした。
ご承知のとおり、平成28年12月、学校教育法施行規則及び文部科学省告示
が改正され、平成30年度から、高等学校においても通級による指導が実施で
きるようになりました。今回の研修会では、教育委員会及び学校が準備を進
めるための参考資料として、制度の内容、準備が必要な事項、関係Q&Aに
ついて取りまとめるとともに、高等学校における「通級による指導」実践事
例集の配付がなされました。
年度末にも関わらず、各都道府県・指定都市教育委員会より121名の出席
を得て、高等学校における「通級による指導」の開始に向けて準備を加速し
ていただくためにも貴重な機会となりました。
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【9】研修員だより
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今号は、平成25年度派遣研究員制度を修了された伊藤 由紀先生からお寄
せいただきました。
「かけがえのない1年間」
伊藤 由紀(千曲市立東小学校)
平成25年度に派遣研究員として、1年間研修をさせていただきました。1
年間は長いです。行く前の覚悟、不安と期待は今でも思い出します。久里浜
に着いた日、仲間は4人しかいないという事実に驚き、長野県にはない波の
音に感動したものでした。1年間を通して、本研究所の研究に関わる中で、
福島、広島、京都の学校へ同行させていただいたり、自ら求めて北海道の学
校公開へも出かけたり、普段できない経験をしました。2ヶ月間の特別支援
教育専門研修を受講される先生方の講義にも出席させていただいて刺激を受
け、自分が無知であることを実感しました。また、外からの目で自分の学校
のことを知ることもでき、自分が恵まれた環境にいることを感じました。研
修を終えて「帰ったらあれもこれもやってみたい」と思っていました。
研修を終えて3年が経ちました。肢体不自由のある生徒達と、廊下で育て
たレタスの観察記録やストップモーションビデオの作成等、iPadを活用した
学習もしてきました。生徒の笑顔に囲まれてきました。研修が上手く生かせ
ているのか疑問ですが、これが私の生かし方なのだろうと思います。
この4月で派遣期間中も所属していた長野県立稲荷山養護学校から小学校
へ異動になりました。研修等の成果をどう生かせるのか、また、試行錯誤の
日々が始まります。今までの経験を生かし、通常の学級でも児童生徒に寄り
添っていきたいと思います。
○千曲市立東小学校のWebサイトはこちら→
http://www.chikuma-ngn.ed.jp/~higashiel/
○長野県立稲荷山養護学校のWebサイトはこちら→
http://www.nagano-c.ed.jp/inayou/
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【10】役員・研究職員の異動について
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●3月で本研究所を退職・転出した、及び4月1日付けで本研究所に着任し
た役員・研究職員を紹介します。
◆3月で本研究所を退職・転出した役員・研究職員
・勝野 頼彦 理事
・小林 倫代 研修事業部 上席総括研究員
・藤本 裕人 インクルーシブ教育システム推進センター 上席総括研究員
・田中 良広 情報・支援部 総括研究員
・長沼 俊夫 研修事業部 総括研究員
・金森 克浩 情報・支援部 総括研究員
・森山 貴史 研修事業部 研究員
◆4月1日付けで研究所に着任した役員・研究職員
・笹井 弘之 理事
・山本 晃 研究企画部 総括研究員
・吉川 知夫 研修事業部 主任研究員
・杉浦 徹 情報・支援部 主任研究員
・滑川 典宏 情報・支援部 主任研究員
・土屋 忠之 インクルーシブ教育システム推進センター 主任研究員
・竹村 洋子 発達障害教育推進センター 主任研究員
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【11】アンケートのお願い
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今号の記事について、以下のアンケートにご回答いただきたく、ご協力の
ほどよろしくお願いいたします。
○アンケートはこちら→
https://www.nise.go.jp/limesurvey/index.php?sid=54863&lang=ja
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【12】編集後記
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今月もメールマガジンをご愛読いただき、誠に有難うございました。読者
の皆様におかれましては、平成29年度が始まり、今年度の事業経営(学校経
営や学級経営などを含めて)をどのように展開していこうかと、様々に想い
を膨らませておられることと存じます。
中には、異動等により新たな環境へ移られることとなり、「まずは、年間
を見通したスケジュールづくりから」と、1年間のイメージづくりを始めら
れている方もいらっしゃることと思います。
今月号では、本研究所の主な年間スケジュールを掲載させていただきまし
た。多くの関係者の皆様にご参加いただけるような各種の事業を開催してお
ります。近年では、首都圏のみならず、インクルーシブ教育システムの構築
を主眼とした、セミナーや展示会等を全国各地で開催しております。どうか
皆様のお近くに参りました際には、私共の催しにお立ち寄りいただけますよ
うに、予めスケジュールとして組み込んでいただけましたら幸いに存じます。
さて、学校・園等の教育現場の皆様に関わっては、平成28年末の中央教育
審議会答申「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指
導要領等の改善及び必要な方策等について」が公表されてから3ヶ月程が経
過し、幼稚園教育要領(案)や小学校学習指導要領(案)、中学校学習指導
要領(案)、特別支援学校幼稚部教育要領(案)、特別支援学校小学部・中
学部学習指導要領(案)がパブリックコメントに掛けられたり、既に幼稚園
教育要領や小学校・中学校の学習指導要領については、告示されたりしてお
ります。
全面実施は、少し先となりますが、答申や告示により示された考え方や方
向性は、先取りして学校経営・学級経営等にも生かしていける部分が多く含
まれています。これらをもとに、学校現場の実践が深化し、幼児児童生徒が
より豊かに成長していくことを願って止みません。そして、本研究所では、
これらの学校現場の実践の更なる深化に際し、より一層お役に立てていける
よう、様々な研究成果の発信と、情報の普及に努めて参ります。
今年度も皆様方の尚一層のご理解とご支援を賜りますよう、よろしくお願
い申し上げます。
(第121号編集主幹 武富 博文)
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次号も是非ご覧ください。
「メールマガジン」へのご意見・ご感想はこちら
国立特別支援教育総合研究所メールマガジン 第121号(平成29年4月号)
発行元 独立行政法人国立特別支援教育総合研究所内
国立特別支援教育総合研究所メールマガジン編集部
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([アットマーク]を@にして送信してください。)
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