国立特別支援教育総合研究所メールマガジン 第124号
メールマガジン
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国立特別支援教育総合研究所(NISE)メールマガジン
第124号(平成29年7月号)
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■目次
【NISEトピックス】
・業務部の活動紹介(3)情報・支援部の活動について
【研究紹介】
・本年度より実施する研究課題の紹介
【海外情報の紹介】
・「自閉症・神経発達障害国際会議 ブータン2017」に参加して
【特総研ジャーナルの紹介】
・諸外国における障害のある子どもの教育及びNISEトピックスについて
【NISEダイアリー】
【研修員だより】
【アンケートのお願い】
【編集後記】
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【1】NISEトピックス
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●業務部の活動紹介(3) 情報・支援部の活動について
新平 鎮博(情報・支援部長/上席総括研究員)
本研究所では、第4期中期目標期間に、情報普及の充実のための「広報戦
略」を策定して、情報発信等の様々な活動を展開しています。また、学校教
育支援・連携担当では、第3期より進めてきました、関係諸機関・団体との
連携推進の結果、現在では、18団体との連携を行っています。これらについ
て、今年度の取組みを紹介します。
情報普及を充実させるには、コンテンツの充実(研究機関として研究成果
を中心に活用できる研究成果物等の充実、収集した情報の充実)、発信ツー
ルの充実、理解啓発の充実、広報の充実等、総合的な取組みが必要と考えて
おります。コンテンツの充実では、支援機器等ポータルサイトの掲載例を今
後も増やしていきます。さらに、研究企画部で作成した研究成果物リスト
(Webサイトにアップしています)の現物を見本として、今後、展示会等の
様々な機会で手にとって頂けるように計画をしております。情報発信では、
より利用しやすいように、Webサイトを改訂する予定です。改訂にあわせて、
対象を広げたコンテンツの作成を計画しております。理解啓発では、研究所
セミナーや地域展示会の機会を通じて、支援機器等教材(ICT機器を含む)
の利用促進等の他、理解啓発を念頭においた企画の検討を進めていきますの
で、ぜひ、ご参加下さい。なお、研究所セミナーは、平成30年2月16日(金)、
17日(土)です。
関係団体との連携については、研究所要覧等を配布できる機会が増えただ
けではなく、共同の調査や調査への助言等、あるいは、総会等で、研究所を
紹介する時間もいただく機会が増えました。また、新規に多くの関係機関・
団体との関係も構築できています。特別支援教育というキーワードで、今後
も質・量共に、連携を深めていきます。そのためにも、研究所を単に知って
いただくだけではなく、上記の情報普及とも併せて、利用できるコンテンツ
の整備・充実が重要と考えており、情報普及を進めていきます。
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【2】研究紹介
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●本年度より実施する研究課題の紹介
研究企画部総合企画調整担当
本研究所で実施する研究において、より教育現場のニーズに対応すること
を目的として平成29年2月に実施した「平成29年度に研究所が実施する新規
研究課題等に係る意見」調査では、多くの方々よりご回答いただきましたこ
とを心から御礼申し上げます。頂戴した貴重なご意見やご要望を踏まえて、
新規課題における今後の取組みについて紹介します。
1)基幹研究「精神疾患及び心身症のある児童生徒の教育的支援・配慮に関
する研究」(平成29年度~平成30年度)
研究代表者:深草 瑞世
本研究では、精神疾患及び心身症のある児童生徒の教育的な支援・配慮に
関して、実際に児童生徒の教育的ニーズに対する支援・配慮例を集約するこ
とを目的とし、成果物として特別支援学校の専門的知見を踏まえた小・中学
校、高等学校の通常の学級や特別支援学級でも利用できる内容を盛り込んだ
支援ガイドブック(仮)を作成します。皆様からのご意見を拝見すると支援
ガイドブックへの期待が大変大きく、真摯に本研究を推進していきたいと思
います。
教育課程との関係、自立活動との関係、インクルーシブ教育システム、連
続性のある多様な学びの場、合理的配慮等、研究所全体での取組みも合わせ
て、教育現場で活用できる内容を研究する一方で、医療、保健、福祉、労働
等、関係機関との連携は、現在を含め将来にわたって、障害・病気のある子
どもの教育を考える上では不可欠な視点と考えております。また、不登校と
の関係、発達障害との関係についての要望、活用できる事例の紹介等のご意
見を踏まえて、今後、研究を推進していきたいと考えております。さらに、
研究途上でも、小・中学校、高等学校の教員も参加できるセミナー等の開催
も含めて、様々な情報発信・収集をしたいと考えております。
既に、予備的研究で、精神疾患のある児童生徒の「教育的ニーズ」のチェ
ックリストを作成しており、関連する学会等でも公表する予定です。また、
研究所の特総研ジャーナルにも予備的研究の成果を発表しているので、是非、
一読いただければ幸いです。なお、身体の病気を中心にした「病気の子ども
教育支援ガイド」(2017年3月)を刊行したところです。その手法と同様に、
疾病ごとの対応も検討しますが、様々な症状から「教育的ニーズ」として把
握し、それに対する「教育的な支援・配慮」を具体的にまとめることで、自
立活動や合理的配慮を考える場合のヒントとなる支援ガイド(仮称)作成に
資する研究となると考えております。
○特総研ジャーナルの掲載記事はこちら→
2)基幹研究「視覚障害を伴う重複障害の児童生徒等の指導に関する研究-
特別支援学校(視覚障害)における指導を中心に-」(平成29年度~平成30
年度)
研究代表者:金子 健
本研究は、視覚障害を伴う重複障害児童生徒等の指導について、特に特別
支援学校(視覚障害)での指導に焦点をあて、適切な実態把握(アセスメン
ト)に基づいた指導内容・方法を明らかにすることを目的としています。皆
様からは、アセスメントについては、重複障害の場合、視機能の評価が困難
なため、その適切な評価方法を示して欲しいとのご意見を多くいただきまし
た。また、指導内容・方法については、視機能の発達の他、手指機能、触知
覚、概念形成、認知機能等の発達を促す指導についても取り上げるべきとの
ご意見をいただきました。本研究では、視機能のアセスメントの他、特に手
指機能、触知覚に関わる触覚のアセスメントや触覚の活用を取り上げる予定
です。なお、指導については、教材教具や環境の在り方についても示して欲
しいとのご意見もいただきました。前者については、視知覚教材、概念形成
を促すための教材教具、ICTを活用した教材教具等、取り上げるべき教材教
具の種類についてもご意見をいただきました。児童生徒等の実態に対応して、
どのような教材教具を用いたら良いかについて、個別の指導計画の作成上の
観点として取り上げることを検討したいと思います。また、環境の在り方に
ついては、環境のアセスメントを含めて検討したいと思います。
また、研究成果をまとめたリーフレットについては、特別支援学校(視覚
障害)以外の特別支援学校や、特別支援学級在籍の児童生徒の指導を含めて、
小・中学校等での活用もできるものにしてほしいとのご意見を多くいただき
ました。その内容、示し方を十分に検討し、期待に添えるものにしたいと考
えております。
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【3】海外情報の紹介
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●「自閉症・神経発達障害国際会議 ブータン2017」に参加して
原田 公人
(インクルーシブ教育システム推進センター長/上席総括研究員)
4月19日から21日、ブータン王国の首都ティンプーで開催された「自閉症
・神経発達障害国際会議 ブータン2017」に参加しました。ブータンは、
「幸せの国」として、日本でも親しみのある国です。人口は約70万人、面積
は九州とほぼ同じで、仏教信仰が広く浸透しています。
この国際会議は、ブータン保健省、バングラデシュ保健福祉省、2つの関
係団体の主催、WHO南東アジア地域事務局が後援し、アジアを中心に欧米諸
国24カ国が参加しました。会議の目的は、自閉症・神経発達障害について、
(1)多職種の専門家と協議を深め、東南アジア諸国の地域解決策を協議する
こと。(2)GIA(The Global Initiative on Autism)プログラムの開発のた
めに、各国との連携を促進することでした
参加者は、行政官、医師、大学教員、実践家などの専門職、地元の関係者
を含めて約400名。王立バンクエット・ホールという天井や壁など全ての面
に美しい装飾が施された会場で行われました。日本人は、WHO職員、ブータ
ン在住の医師、特総研から、3名が参加し、それぞれの分野での活動を報告
しました。期間中、バングラデシュ首相とブータン首相がお越しになり、セ
ッションの終了まで各報告に耳を傾けておられました。
会議は、自閉症の臨床実践やASDへの早期発見・早期介入のワークショッ
プ、特別講演、神経発達障害者と家族に対する地域密着型介入モデルや自立
生活を支援するための方策についてのパネルディスカッションなど9つのセ
ッションがあり、どのセッションも参会者を交えた熱心な討論が行われまし
た。
このうち、特別講演では、個別教育計画に基づいた、社会自立訓練の実践
報告がありました。講師は、個々に応じたねらいを明確にし、実際の生活場
面での「訓練」が重要であると、ビデオで実際場面を紹介しながら、自閉症
児の可能性を何度も強調され、参会者の共感や賛同を得ていました。
また、私が座長を務めた「個に応じた教育」のセッションでは、「インク
ルーシブ教育は、インクルージョンの一部であること」、「社会にはインク
ルージョンに対し、イクスクルージョン(排除)の考えも現存している」と
いう議論がありました。
今回の国際会議の参加を通して、アジア太平洋地域に向けて、日本の障害
のある子どもに対する指導法など特別支援教育の情報発信が必要であること、
また、インクルーシブ教育システムは、インクルージョンの一部としておさ
え、社会(経済、文化など)全体から、教育を考える視点が重要であること
を感じました。
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【4】特総研ジャーナルの紹介
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●諸外国における障害のある子どもの教育及びNISEトピックスについて
本研究所では、本研究所の研究をはじめとする様々な活動内容を紹介する
「特総研ジャーナル」を毎年作成し、Webサイトに掲載しています。
今号では、諸外国における障害のある子どもの教育及びNISEトピックスと
して掲載されている内容を紹介します。
-諸外国における障害のある子どもの教育-
本研究所が、毎年度行っている諸外国の障害のある子どもの教育に関する
基礎情報の調査結果として、アメリカ、イギリス、イタリア、フランス、韓
国、オーストラリア、フィンランド、スウェーデンの計8か国の状況につい
て掲載しています。
-NISEトピックス-
本研究所が平成28年度に情報普及・理解啓発活動として実施した各種イベ
ントや研究協議会等の様子を紹介しています。
○諸外国における障害のある子どもの教育及びNISEトピックスに関する記事
はこちら→
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【5】NISEダイアリー
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「目玉は何か?」
宍戸 和成(国立特別支援教育総合研究所理事長)
学習指導要領等の改訂作業が始まる頃、時の課長から、「今回の改訂の目
玉は何か?」と、宿題が出される。障害児教育関係者の関心を集める事柄を
探しなさいという指示でもある。
私は、四回ほど、改訂作業に関わった。最初は、平成元年10月告示の改訂
に。4月に特殊教育課に着任したのだが、学習指導要領等の改訂作業はほと
んど終わっていて、専ら解説の作成に携わった。この時の目玉は、幼稚部教
育要領の制定だった。二回目は、最初から改訂作業に関わった。平成11年3
月改訂の学習指導要領等である。この時の目玉は、養護・訓練を自立活動に
改めたことであろう。それまで別々に開催されていた教育課程部会が、初め
て幼稚園、小・中学校、高校と盲・聾・養護学校が一緒に開催された。当時
は、完全学校週五日制を控えており、当然の成り行きであった。全体会の席
で、ある幼稚園関係の委員から、「今時、『養護』とか、『訓練』という言
葉を遣うのは如何なものか。」という発言があり、急遽、新たな呼称を考え
ることになった。それでできたものが「自立活動」である。「瓢箪から駒が
出る」という成句があるが、まさにそれを地で行くような出来事であった。
三回目も最初から関わった。平成21年3月改訂の学習指導要領等である。
この時の目玉は何か。その頃、発達障害の子どもへの対応が話題になりつつ
あった。特別支援学校にもそうした子どもが在籍するというので、その子達
へも適切な指導を行えるようにするため、自立活動の内容等の見直しを行っ
た。また、具体的な指導内容の設定がしやすくなるように、解説の表現を具
体的かつ分かりやすいものにした。
そして、最後は今回の改訂である。実際の作業には携わっていないが、特
別支援教育部会の委員として参加させて貰った。それでは、平成29年4月に
告示された学習指導要領等の目玉は何か。特別支援学校の分野に絞って考え
てみると、私は、「知的障害者である児童(生徒)に対する教育を行う特別
支援学校」の各教科(以下、「知的の教科」とする。)の見直しであると思
う。なぜなら、これには、平成26年1月の、我が国における障害者権利条約
の批准が影響していると思うから。
そこでは、インクルーシブ教育システムの構築が謳われていて、障害のあ
る子とない子が、共に教育を受ける機会を模索する必要があるからである。
交流及び共同学習の機会を活用するなどして、共に教育を受けるとなると、
「何をどのように学ぶか」ということが課題となる。これは学習指導要領等
における目標や内容と深い関連がある。こうした子どもたちの学ぶ姿を想像
して、特に、知的の教科を見直し整理した。これが、目玉だと私は思う。
その上で、これからは子どもたちの指導を担当する先生方の説明責任が問わ
れる。「何ができるようになるか」、「何を学ぶか」、「どのように学ぶか」、
「どのように支援するか」、「何が身に付いたか」についての説明だ。特に、
知的障害教育においては「なぜ、こうした指導をするのか?」の説明が重要
になる。例えば、「なぜ、合わせた指導か、なぜ、教科別の指導か。」だ。
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【6】研修員だより
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今号は、平成25年度第一期特別支援教育専門研修を修了された小西孝政先
生からお寄せいただきました。
「充実の研修プログラム」
小西 孝政(千葉県立大網白里特別支援学校)
平成25年度第一期「病弱教育専修プログラム」、平成28年度第二期「視覚
障害教育専修プログラム」、幸運にも2度の研修の機会をいただき、快く研
修に送り出してくれた職場の仲間や家族、そして研修で出会った多くの仲間
のお陰で充実した時間を過ごすことができました。最先端の研究をされてい
る講師の先生方の講義や夜遅くまで続けた研究協議、教材作成の実技や演習、
模擬授業、実際の学校や施設での実地研修など、充実した学びの連続でした。
また、複数の障害種が同時展開されていることで、他の障害種の講義を受講
する機会もあり、専門性の幅を広げながら高めていくことができました。盲
学校の経験のない私が視覚障害教育プログラムに参加させていただき、(9
名中3名が盲学校以外からの参加でした)いろいろな学校で様々な経験をし
てきた仲間と議論を重ねることで、自分の中に新たな視点をもつことができ
ました。また、自分の学校の良さを改めて発見することもできました。そし
て何よりの財産は全国の仲間や研究所の先生方との繋がりができたことです。
東京湾の向こうに見える久里浜からエネルギーをもらいながら、これから少
しずつですが子ども達のために実践を積み重ねていきたいと思います。
○千葉県立大網白里特別支援学校のWebサイトはこちら→
http://cms2.chiba-c.ed.jp/o-shirasato-sh/
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【7】アンケートのお願い
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今号の記事について、以下のアンケートにご回答いただきたく、ご協力の
ほどよろしくお願いいたします。
○アンケートはこちら→
https://www.nise.go.jp/limesurvey/index.php?sid=24963&lang=ja
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【8】編集後記
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7月に入りました。暑い夏ももうすぐですね。この時期は梅雨から夏にか
けて気候が変化しますし、1学期の終業式の準備等でお忙しい日々を過ごさ
れるかと思います。体調を崩されないよう、皆様もお体ご自愛ください。
本研究所においては、5月から開催している第1期特別支援教育専門研修
が、まもなく修了という時期です。様々な地域から集った研修員の皆さんは、
互いを尊重し合いながら毎日熱心に研修に参加して下さっています。研修員
の皆さんは研修員の同期として、これまで研修に参加して下さった研修員の
OG、OBの皆さんと同じように、研修期間中に素晴らしい友好関係を構築され
ています。こうした研修員の皆さんの同期のネットワークは、歴代の研修員
のOG、OBの皆さんとも繋がって更に広がっていくことと思います。我々研究
職員もこうしたネットワークの中に入れて頂いており、皆さんから本当にた
くさんのことを学ばせて頂いております。本研究所のメールマガジンにおい
ても、たくさん皆さんと繋がって参れればと思いますので、今後もご愛読の
ほど、何卒よろしくお願い申し上げます。
(第124号編集主幹 土井 幸輝)
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次号も是非ご覧ください。
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発行元 独立行政法人国立特別支援教育総合研究所内
国立特別支援教育総合研究所メールマガジン編集部
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