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国立特別支援教育総合研究所メールマガジン 第143号

メールマガジン

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      国立特別支援教育総合研究所(NISE)メールマガジン
         第143号(平成31年2月号)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ NISE(ナイセ)━━━
■目次
【お知らせ】
・平成30年度第三期特別支援教育専門研修開講
【連載コーナー】
・共同研究「インクルーシブ教育場面における知的障害児の指導内容・方法
の国際比較~フィンランド、スウェーデンと日本の比較から~(平成28-29
年度)」の研究成果報告書から [第7回]
【海外情報の紹介】
・英国開催「EQUALS Autumn Conference 2018」の参加報告
【NISEダイアリー】
【研修員だより】
【アンケートのお願い】
【編集後記】
 
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【1】お知らせ
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●平成30年度第三期特別支援教育専門研修開講
 1月9日(水)、平成30年度第三期特別支援教育専門研修(視覚障害・聴
覚障害・肢体不自由・病弱教育コース)が開講しました。今期(1月9日~
3月14日)は、全国から集まった64名が受講しています。
 特別支援教育専門研修は、年3期開講し、各都道府県等で指導的立場に立
つ又は今後指導的立場に立つことが期待される教職員が、教育委員会等の推
薦を受けて受講するものです。
 研修プログラムは、特別支援教育全般と各障害種別に関する専門的な講義
や演習、研究協議、実地研修等で構成されています。約2か月間の宿泊型研
修で、神奈川県横須賀市の本研究所にて受講していただきます。
 この研修では、専門的知識及び技術を深めるとともに、全国から集まった
教職員同士の情報交換やネットワークづくりも魅力となっています。
 
○特別支援教育専門研修の内容等はこちら→
 http://www.nise.go.jp/nc/training_seminar/special_support
 

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【2】連載コーナー
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●共同研究「インクルーシブ教育場面における知的障害児の指導内容・方法
の国際比較~フィンランド、スウェーデンと日本の比較から~(平成28-29
年度)」の研究成果報告書から

第7回 「事例6 小学校6年生の音楽の交流及び共同学習の実践」

                   知的障害教育研究班 平沼 源志

                       (研究企画部 研究員)

 
 本事例は、知的障害特別支援学級に在籍する小学校6年生Fさんが、通常
の学級の音楽の授業に参加し、学習面の目標と関わりの目標の達成に向けて
取り組んだ実践です。
 Fさんはリズム感が良く、音楽の授業を好んでいました。しかし、音楽の
授業は週当たりの時間数や、各題材の時間数が少なく、Fさんが短時間で異
なる目標を達成していくことは難しいと考えました。そこで、題材が変わっ
ても学びを積み上げ、目標が達成できるよう、学習面の共通目標は、Fさん
の良さを生かし、「曲のリズムに合わせる」と焦点化しました。また、関わ
りの目標を「班の話合いで友達と受け答えし、自分の考えを伝える」としま
した。
 本事例では、5月から7月までの間に、Fさんが参加する授業を3回参観
しました。ここでは、3回目に参観した題材「ひびき合いを生かして~演奏
『カノン』~」について紹介します。
 Fさんの学習面の目標は、「リコーダーの『シ』の音を曲のリズムに合わ
せて演奏する」ことでした。一定のリズムであればリズムを取りやすいと考
え、演奏箇所を始めの「2・4小節目の3拍目」としました。演奏箇所が分
かるように、Fさんの教科書には、該当する音符を○で囲んだり、余白にめあ
てを示したりしました。なお、リコーダーは1回目に参観した題材「音の重
なりとひびき~演奏『マルセリーノの歌』~」でも取り上げていました。1
回目同様、Fさんが最もおさえやすい1番上の「シ」を選び、裏側にパット
を付けておさえやすくしました。本時では、これまでリコーダーでできつつ
あった「シ」を取り上げることで、始めから正しい持ち方で演奏でき、前の
題材よりも確実にできるようになっていました。
 また、関わりの目標は、「班の話合いで友達と受け答えし、自分の考えを
伝える」ことでした。本時では、「カノン」の演奏箇所について、班で役割
を決める活動がありました。決めたことを書くプリントは各班に1枚だけ用
意されており、それを手掛かりに関わりが必然的に生まれる設定になってい
ました。Fさんはこれまでの学習により、自分の演奏箇所を理解できるよう
になっており、友達とやりとりし、自らの演奏箇所を伝える姿が見られまし
た。
 交流及び共同学習において、知的障害特別支援学級に在籍する児童が、異
なる目標の達成を目指し、取り組んでいくことは、学年が上がるにつれて難
しくなると考えられます。本事例では、Fさんの目標を、達成可能かつでき
ることの継続・発展等の観点から焦点化したことにより、内容も絞ることが
でき、有効な方法も検討しやすくなりました。また、本事例では、学習面の
目標と関わりの目標を関連させて設定したことで、交流及び共同学習を自然
な形で展開することができました。これは、交流の側面と共同学習の側面が
一体で分かちがたいものとする「交流及び共同学習」のねらいにせまる取組
と言えます。
 本事例が詳しく掲載されている研究成果報告書は、以下のURLからダウン
ロードすることができます。
 
○本共同研究の研究成果報告書はこちら→
 http://www.nise.go.jp/nc/study/intro_res/joint
 
 次回は、本共同研究の実践事例から見える、交流及び共同学習における
工夫点と課題について掲載する予定です。どうぞお楽しみに。
 
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【3】海外情報の紹介
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●英国開催「EQUALS Autumn Conference 2018」の参加報告
                 若林上総(研修事業部 主任研究員)
   坂井直樹(インクルーシブ教育システム推進センター 主任研究員)
 
 昨年11月、「重度・重複障害のある全ての子どものためのアセスメントの
アイデア」と題し、英国で行われたEQUALS Autumn Conference 2018に参
加しました。会を主催したEQUALSは、公益を推進する機関として政府に認
定を受けた組織(registered charity)で、重度・重複障害のある子どもの指
導に当たる先生方の研修などを企画・運営しています。会の趣旨は、全国共
通カリキュラム(National Curriculum)での学びに困難のある特別学校
(special school)の子どものために、全国共通カリキュラムに代替される
教育プログラムを編成、実施する上で必要なアセスメントの情報を提供する
というものでした。近年の英国の教育施策の動向を受け、英国内から多くの
教員、管理職、専門職などが情報収集に参加しており、会場は熱気に包まれ
ていました。
 会の前半は、英国内の近年の政策動向の紹介でした。
 英国の特別学校では、これまで、全国共通カリキュラムに替わる教育プロ
グラムを計画、実施し、評価する際、P-scalesを参考にすることがありまし
た。P-scalesとは、子どものパフォーマンスに関する法定の指標です。教科
学習に困難のある子どもの学習内容として、全国共通カリキュラムとの連続
性を考慮しながら段階的に記述したものとなります。ところが、近年では、
重度・重複障害のある子どもにとって、この段階的な記述は実態にそぐわず、
学習の進捗を計ることができないのではないか、ということが英国内で議論
されていたのです。
 これに対し英国教育省は、現場の実態把握と、今後の方向性に関する提言
を専門家に求めました。これをまとめたものが“Rochford Review(2016)”
と呼ばれるものでした。今回の会には、この提言のとりまとめを行った
Diane Rochford氏が登壇しました。提言は、教科学習以外の学習を要する実
態の子どもの評価には、実態にそぐわないP-scalesではなく、より細かな内
容を盛り込んだ新たな指標(pre-key stage standards)を用いることや、評
価自体は認知と学習の領域に絞って行うことが推奨されています。折しも、
日本では新しい学習指導要領のもと、知的障害教育課程の内容がより細かく
規定されたところです。英国では、新しい指標とそれに基づいた学習評価が
試行されているところであり、今後もその動向は注目に値するものと言えそ
うです。
 会の後半は、子どもの実態や学習の進捗を評価するパッケージを学ぶワー
クショップでした。
 Rochford Reviewに取り上げられたアセスメントの視点を生かした尺度や、
会を主催したEQUALSが提案する“個別の進捗の計画と評価
(Mapping and Assessing Personal Progress; MAPP)、その他、日本にも紹
介されているアセスメントの枠組み”SCERTSモデル“など、多様なパッケー
ジが紹介されました。どのアセスメントにおいても、総括的(summative)
な評価を導く前提として、日々の形成的な(formative)評価が扱われてい
ました。学習評価のあり方については我が国でも中教審で議論が続いており
ますが、教育的ニーズの高い子どもの学習をどのように捉えるかという点に
おいて、英国の動向は今後の我が国に示唆を与えてくれるものだと感じられ
ました。
 
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【4】NISEダイアリー
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           「挨拶も、いろいろ」
           宍戸 和成(国立特別支援教育総合研究所理事長)
 
 ある知人から聞いた話だ。2人のお孫さんがおられるとのこと。下の男の
子に挨拶を教えたという。1歳になったばかりの時に、たまたま誕生会の席
で、久し振りに会ったその子に、手を挙げて「おーっ。」と声を掛けたそう
だ。そうすると、その挨拶が気に入ったのか、時々、顔を合わせる度に、口
を丸めて、「おーっ。」と声を出しつつ手を挙げて、ハイタッチを求めると
のこと。それに応えると喜んで抱き付いてくるそうだ。
 上のお兄さんは、3歳。知人が、「ただ今~。」と言って帰ると、その子
も「ただ今。」と言ってくれるそうだ。すると、お母さんから、「お帰りで
しょ。」と声を掛けられ、子どもは、「お帰りなさい。」と言い換えるとの
こと。
 面白いと思いながら聞かせていただいた。年相応に挨拶も変わっていく。
兎角、大人の感覚で言葉を投げ掛けがちだが、一足飛びに大人になる訳では
ない。挨拶の仕草も言葉も、子どもが自ら、必要に応じて身に付けていくの
だろうと思う。手を挙げたり、口を丸めて「おーっ。」と言ったりして、相
手が同じことをしてくれることに挨拶の原点があるのだろう。そして、相手
の言葉を真似ることから挨拶が始まり、立場による言葉掛けの違いを知る。
 聞こえる子どもの場合には、子どもが自ら言葉を修正しつつ、挨拶の言葉
を増やしていく。障害のある子どもの場合は、周囲の者の気配りが必要にな
る。久里浜特別支援学校にいた時のことである。小学部1年生のある男の子
に、朝、会うたびに声を掛け続けた。「おはよう。」、「朝ご飯、食べた?」
などと変化を交えながら。でも、なかなか返事をしてくれない。2年生にな
ってから、夏頃だろうか。「お、は、ょ。」と小さな声が聞こえた。やっと、
私を「相手」として、認めてくれたのか?それからは、徐々に返事をしてく
れるようになった。不思議なものである。根気が必要なことを学んだ。聾学
校では、すぐに言葉を出させようとしたが、知的障害を併せた自閉症の子ど
もの場合は、もっと気長に付き合わなければいけないと思った。
 去年、研究所では、特別支援学校の高等部の生徒1人を就業体験として受
け入れた。4日間ほど、研究所の様々な仕事を経験してもらった。たまたま、
朝の路線バスで、その生徒と一緒になった。「おはよう。」と声を掛けるが、
なかなか返事がない。別に無理に返事をしてほしいという訳ではない。でも、
声が出せないなら、頭をちょこんと下げるという方法もある。昼休みは、六
角食堂で研究所の職員と並んで昼食を取っていた。そして、自分のスマホを
見せながら、職員と会話をする姿も見掛けた。声を出すのが苦手でも、顔を
知っている人には、頭を下げるような挨拶の仕草はできそうだ。
 昔、聾学校の職業教育に関する研究会で、聞こえにくい生徒を受け入れて
くれている会社の人事担当の方が、「学校では、挨拶ができるように指導し
ておいてください。」と話していたことを思い出した。
 挨拶の言葉を正確に言えるようにすることも大切だが、子どもの実態に応
じて、相手の仕草や言葉にそれなりに対応することの大切さに気付かせたい
ものである。子どもの実態が様々であるように、子どもの挨拶もいろいろあ
ってよいと思う。挨拶は、人と人の関わりを作るきっかけになるもの。子ど
も達が社会生活を送るための第一歩かもしれないと思う。

 

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【5】研修員だより
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 今号は、平成30年度第一期特別支援教育専門研修を修了された山本誠先
生からお寄せいただきました。
 

「学び浸りて…」
                山本 誠(兵庫県立阪神昆陽高等学校)
 
 私が久里浜で過ごしたのは昨年5月からの2か月間。不安や違和感を抱え
ながら始まった特別支援教育専門研修は、得難い経験となりました。
 大村はまさんの「優劣の彼方に」という詩にまつわる宍戸理事長のエピソ
ードから始まった講義は、いずれもその分野の第一人者による新鮮で詳細で、
何より熱いものばかりです。ぜひ自分のものにしよう、聞き逃すまいと書き
留めた分厚いノートもいつしか3冊を数えました。週末はさらに書き込みを
しながらノートの整理。かけがえのない財産になっています。
 でも晴れた日には、江ノ電や湘南モノレールの乗り尽しに出掛けたり、絵
本カフェで手帳に絵日記風のメモを書いたりもします。そんな絵を囲んで先
生方との交流が深まり、いつの間にか不安や違和感は消えていました。
 研修期間中には大阪で地震、西日本で豪雨と災害も続き、遠く離れた地元
の無事を案じながらの先生も少なくありません。それでも、今すべきことは
学ぶことと打ち込む先生方の姿には、胸を打たれる思いがしました。研修最
後にみんなで歌った「旅立ちの日に」の歌詞のように、「この広い大空」の
下には大勢の仲間がいる、その思いを力に高校通級に取り組んでいます。
 
○兵庫県立阪神昆陽高等学校のWebサイトはこちら→
 http://www.hyogo-c.ed.jp/~hanshinkoya-sn/
 
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【6】アンケートのお願い
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 今号の記事について、以下のアンケートにご回答いただきたく、ご協力の
ほどよろしくお願いいたします。
 
○アンケートはこちら→
 https://www.nise.go.jp/limesurvey/index.php?sid=49789&lang=ja
 
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【7】編集後記
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 今号も本メールマガジンをご愛読いただき、ありがとうございます。
ある年の2月、ひょんなことからある高名な俳人とお会いする機会を得まし
た。お会いしては世間話や俳句の話をお伺いする、束の間の時間がとても楽
しく、とうとう、俳句を作るコツ?まで教えて下さり…。今はもうお会いで
きませんが、緩やかに人生の後押しをしていただき感謝しています(ご本人
はそんな意図はお持ちでなかったかもしれないですが)。国語はとても好き
な教科でしたので、子どもの頃の関心がこんな風につながるのだなあ、と思
ったり、さらには、今の時代の子どもたちに対して、学校教育は、研究所は、
何ができるだろうか、と思ったりしています。
 今年度は高校での通級指導が本格実施となりましたので、研修員だよりは、
発達障害・情緒障害・言語障害教育コースに参加された山本誠先生にご寄稿
をお願いしました。ご一緒した班は、校種やご経験等が特に多様なメンバー
構成で、班別協議では、まず連携について糸口を探り、そこから特別支援教
育コーディネーターの役割について熱い議論が交わされたと記憶しています。
連載コーナーでは、交流及び共同学習での目標設定の工夫、海外情報では、
重度・重複障害のある子どもの教育に関する英国の政策動向やアセスメント
についてご紹介しています。
                  (第143号編集主幹 竹村 洋子)
 
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次号も是非ご覧ください。
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国立特別支援教育総合研究所メールマガジン 第143号(平成31年2月号)
       発行元 独立行政法人国立特別支援教育総合研究所内
           国立特別支援教育総合研究所メールマガジン編集部
           E-mail a-koho[アットマーク]nise.go.jp
          ([アットマーク]を@にして送信してください。)
 
○研究所メールマガジンの利用(登録、解除、バックナンバーを含む)につ
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