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日韓特別支援教育協議会

諸外国の最新動向の把握と国際交流

インクルーシブ教育システム推進センター

2023年度日韓特別支援教育協議会報告

 特総研では、韓国国立特殊教育院と相互交流と連携を深めるために日韓特別支援教育協議会を令和2年(2020年)から毎年実施しています。今年度は韓国国立特殊教育院がホストとなり、韓国での開催となりました。同協議会出席のための韓国国立特殊教育院への訪問と併せて、日本の文部科学省にあたり、韓国の教育政策を中心的に担う教育部や、知的障害特別支援学校であるセジョンイウム学校に訪問しました。

韓国教育部について(5月18日訪問)

 教育部では、特殊教育政策課のキム・ソンミ課長を始め、5名の教育部の職員と情報交換を行いました。最初に韓国側から、韓国の特別支援教育に関する教育政策や現状についての説明があり、その後の質疑応答では、互いの質問内容をもとに、特別支援教育に関する情報交換を行いました。日本側からは、特別支援教育の対象者の判定の仕方、通常の学級で学ぶ特別支援教育の対象者への支援の内容、障害種の区分、障害者権利条約をめぐる国連からの勧告への対応等について質問しました。また韓国からは、障害のある子どもの医療的支援、特別支援教育学校の運営の仕方、大学等への進学や就職の際の移行支援、障害のある子どもの運動や文化活動への参加等についての質問がありました。

 情報交換を行って感じたことは、韓国の特別支援教育は、文化等の違いから日本と異なる点があるものの、共通する部分も多いということです。例えば、特別支援教育の対象者が年々増加し、それに伴い、特別支援学級の数も増えていること、また特別支援教育の対象者を判定する際に、地域の特別支援教育支援センターが教員、心理士、医療関係者などで構成されるチームを作って行っていること、またそこでの判定をもとに学びの場を決定する際に、保護者の意見が最大限反映されることなどは、日本と似ていることだと感じました。また韓国では、特別支援教育対象の子どもの多くが、特別支援学級も含めた通常の学校で学んでいるという現状や、また国連からの勧告への対応などから、日本と同様、通常の学校や学級での、対象者への指導・支援に関する関心が高まっているように感じました。

教育部での様子

写真は、韓国の特別支援教育に関する教育政策や現状を説明いただいている様子 

セジョンイウム学校について(5月18日訪問)

 知的障害特別支援学校であるセジョンイウム学校に訪問しました。最初にチョン・ミンホ校長先生より学校の概要について説明を受け、その後施設見学を行いました。この学校は、セジョン市に3月に開校したばかりの新しい特別支援学校です。学校を作る上で最も考慮しなければならいないのは子どもの安全であるという方針のもと、校舎の様々な場所にクッション性の壁が設置されていたり、車いす等が過度に加速しないように途中に平らな部分を設けたスロープが設置されていたりなど、安全に関する様々な工夫が施されていました。また、子どもが落ち着いて過ごせる場所として、ホームベースと呼ばれるブースが設置されていました。職業教育のための施設も充実しており、バリスタのための施設や、野外には園芸のための施設が設置されていました。ただあくまで、その職業人を養成するためというよりは、それらの職業教育を通して、人間的な成長を図る目的が大きいとのことでありました。

職業教育施設(バリスタ)

写真は、ホームベース(左)と職業教育のための施設(右、バリスタ実習のための機器が今後設置される)

 チョン・ミンホ校長先生は、2011年3月10日に本研究所で開催した日韓セミナーの参加のために来日されており、不運にもその翌日に東日本大震災があり、日本国内が大変混乱したが、そんな中でも特総研職員が、韓国へ無事に帰れるように献身的なサポートをしてくれたと深く感謝をされていました。

韓国特殊教育院について(5月19日訪問)

 最初に、イ・ハンウ院長と懇談をし、今までの協議会について振り返りながら、今後の協議会の方向性について意見交換を行いました。また、当研究所から記念品のこけしを贈呈しました。

記念品贈呈の様子

写真は、記念品のこけしを贈呈する様子

 その後、韓国特殊教育院の施設見学を行いました。最初に、ICT関連の施設や作成した教科書の展示スペースを見学したました。韓国社会は、急速にデジタル化が進んでおり、デジタル機器を安全に活用するための「デジタル教育」に力を入れています。例えば、町のカフェや売店等の多くには、キオスク端末という自動精算機が設置されています。韓国特殊教育院では、子どもがこれを使いこなせるようにするための体験コーナーが設置されています。

ICT関連の展示スペースの写真キオスク端末の写真

写真は、ICT関連の展示スペース(左)とキオスク端末(右)

 また、VRなどのICTを用いた体験型学習ができる機器揃えたバスも所有しており、移動しながら様々な地域の子どもが学習できるようにしています。デジタル教育は、デジタル機器を使いこなせるようにするだけではなく、サイバーテロなどの脅威を学び、それらに対応できる子どもを育てることも重要な目的とのことでした。

 配信の設備も充実しており、動画の収録スタジオも設置されていました。コロナ禍が落ち着いてきた現在でも、講義の約3割をオンラインで行っているとのことです。現職の教員研修にも力を入れており、日本の研究所同様、敷地内に研修生用の宿泊棟がありました。さらに今後は、立体型の駐車場を新たに設置し、多くの研修生等に対応できるようにしていく予定とのことでした。

収録室の写真

写真は、収録室の設備 

日韓特別支援教育協議会について(5月19日参加)

 施設見学をした後、日韓特別支援教育協議会に出席しました。開会式で両研究所の理事長、院長が挨拶を行い、それぞれの研究機関の発表を行いました。最初に日本側から、久保山茂樹インクルーシブ教育システム推進センター上席総括研究員(兼)センター長が当研究所の概要説明を、また佐藤利正主任研究員が昨年度までの重点課題研究「通常の学級における多様な教育的ニーズのある子供の教科指導上の配慮に関する研究」の発表を行いました。その後韓国側から、キム・ギルテ教育研究官による韓国国立特殊教育院の紹介、パク・ヘリョン教育研究士による「デジタル教育のための韓国のロードマップ」の発表がありました。

佐藤主任研究員が発表する様子

写真は、佐藤主任研究員が発表する様子

 お互いの国の発表が終わった後、総合討論に移り、それぞれの発表内容に関する質疑応答を行いました。日本側からは、Webでの教育コンテンツの開発について重点的に取組んでいること、またICTに関する予算の割合について質問しました。韓国からは、特別な支援を要する子どもが通常の学級で学ぶ際の評価の基準や方法に関しての質問がありました。また会場からも質問があり、当研究所が今後重点的に取組んでいきたいことや、今回発表した研究に関する報告書等の入手の仕方についての質問がありました。質問の中で、通常学級での特別な支援を要する子どもの支援の重要性についての発言があり、このことに関する関心の高さを改めて感じ取ることができました。

質疑応答の様子

写真は、質疑応答の様子

 最後に、今回の協議会に中心的に関わって下さった方々と記念撮影を行い、本協議会は終了しました。

記念撮影の様子

写真は、記念撮影の様子

 今回、韓国教育部や韓国国立特殊教育院から得た情報を当研究所の活動や日本の特別支援教育の充実・発展に生かせるように、また、日韓特別支援教育協議会が一層有意義なものになるように、今後も努めて参ります。

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