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本文 III 主要国における特別な教育的ニーズを有する子どもの指導について
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4.USLにおける聞き取り
 2度の調査にわたって、ボローニャ市に複数あるUSLの一つである公共総合診療施設Poliambulatorio GRADAを訪問し、小児医療プログラム部長Paolo CAPURSO氏はじめ、小児科医、PT、ST等のプロジェクトチームのスタッフから学校教育との連携や最重度児への対応について聞き取り調査をした。

1)医師の立場から
 就学についてはUSLが中心になり、判断していく。就学後も支援を続け、学校での指導についても、教師と協力して計画を立てる。保育園で支援教師が必要と判断された場合、その申請をするのもUSLの役割の一つである(小学校の支援教師の配置については教育委員会の任務である)。リハビリ担当医と支援教師は協力関係にあり、教師、医師、保護者の3者面談を年3回持っている。情報交換を通して成長過程が確かめられる。リハビリ医が学校を訪問し助言することもある。

2)STの立場から
 学校との関係においては、直接リハビリを行うというよりも、環境づくりが中心である。決められた懇談以外にもミーティングの場を設定して、意見交換をする。頻繁に学校に出向き、児童の様子をみることもある。訓練は学校の時間帯であっても、必要に応じて受けることができる。
 USLのスタッフが学校への介入を行う意味は、(1)指導モデルの提供、(2)教師の養成(担任以外の教師の参加も可)の2点にある。


3)重度の障害のある子どもへの具体的な対応
 どんなに障害が重くても一般の学校へ行くことが前提であり、他の子どもと一緒に生活をすることに第一の意義がある。義務教育段階はUSLと学校が連携しており、指導にあたっては、対象となる児童生徒に応じた具体的な指導内容、指導方法、ケアの在り方などについて検討している。また、イタリアでは、教師は教育の分野のみに関わって責任を負っており、学校での教育以外の医療や介護等のケアについては教員とは別のスタッフ(介助員)が担当することになっている。
 この介助員は、教育以外の子どもの活動を支援することを業務としており、市単位で雇用されている。介助員は協同組合から派遣される。
 第2次調査では、より具体的な事例の紹介を受けた。脳性マヒで車椅子の生活をしており、瞬きによるコミュニケーションが何とか可能な6歳児の男児が、23人の児童の学級に在籍している事例であった。担当の支援教師も含めて、この児童に関わっているスタッフから通常の学級での生活の様子をレポートしてもらった。1事例であるが、重度障害児の通常学級での生活しているという事実を確認することができた。重度の障害があっても通常学級での生活が保障されているポイントとしては、次のような諸点をあげることができる。医療面においてはUSLが責任もってサポートしていること。必要に応じてUSLのスタッフが学校を訪問して指導に関わっていること。学校での指導については支援教師と介助員が責任もって対応しているが、本児のための教育計画については学級担任と支援教師、USLのスタッフで検討されていること。学校生活では、活動の内容に応じて集団指導、グループ指導、個別指導など多様な指導形態が用意されていること。こうした体制は少なくとも義務教育段階ではシステム化されている。

4)医療的ケアについて
 吸引などの医療行為は、医師が指示し、親の同意を得て、介助員が行う。教師は直接関与しない。医療的な対応は個々に応じて変えて行かねばならない。対応の多様性が重要であり、したがって、最重度の子どもの場合にはケースバイケースで係わっていくことが求められる。最重度の子どもの場合、治療的側面よりも現状維持が目的となる場合もある。

5)子どもの措置について保護者との間に齟齬が生じた時の対応について
 精神科医のPaolo CAPURSO医師より次のような回答があった。
 「USLのスタッフは、子どもが小さいときから相談に当たっており、保護者の相談にも乗っている。そうした係わりの中で親にも受容について考えさせるようにしている。親が苦しむにはそれなりの問題があるので、ボジティブな面をみて、一緒に考えるようにして保護者の納得する方向へもっていくように努力している。しかし、現実には、保護者の理解が弱かったり、保護者自信が障害を持っていたりするために対応が困難なケースもある。」
 第2次調査においては、保護者との関わりが困難な故に、力を伸ばしきれないでいる児童についての事例が心理担当者および医師より紹介された。こうしたケースにおいても、イタリアでは、USLのスタッフがコーディネータの役割を果たしていることが認められた。

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