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本文 III 主要国における特別な教育的ニーズを有する子どもの指導について
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4.統合教育に関する最近の展開
 以下、統合教育に関する最近の展開を列挙する。
1)「HANDISCOL計画」と呼ばれる統合教育を推進する計画が、「学校教育についての文部大臣代行」(Ministre déléguée à l'enseignement scolaire)の強い意志で、1998年から始まった。社会事業担当庁視察官長と文部省視学官長に対して、共同の任務として行うよう指示した。その結果、20箇の方策(注1)が決定された。
 その方策の一つとして、親向けのガイドブックが発行されている。視覚障害児および聴覚障害児を受け入れる教師向けのガイドブックも発行されている。他の障害についても発行が予定されている。
 他に、統合教育のための補助サービスを実行するためのガイドも出されている。このガイドによると、「集団での統合」の場合も、「個別の統合」の場合も、統合教育支援のために援助指導員(aides-éducateurs)をつけることが述べられている。
 以上のことについては、フランス文部省のホームページに「HANDISCOL」のコーナー6)があり、その内容が説明されている。上記文書類も掲載されている。
 また、シュレーヌ国立センターを受け手として、この計画に関しての問い合わせ電話が設置されている。シュレーヌ国立センターでは、この電話により、親などの要望、障害ごとの現状などについて知ることができる。

2)シュレーヌ国立センターで入手した障害者国家諮問会議(CNCPH:Conseil national consultatif des personnes handicapées)の文書(1999年4月20日の会議の文書)1)によると、HANDISCOL計画での「集団での統合」の推進(方策10)の中味として、初等教育段階では、必ずしも統合教育の目的を果たしているとは言えない知的障害統合学級(CLIS1)の機能を再検討し明確にすることと、他の聴覚、視覚、運動障害統合学級(CLIS2、3、4)の拡充を図ることが述べられている。また、中等教育段階では、知的障害対応の統合教育ユニット(UPI)の拡充を図ることと、聴覚、視覚、運動障害統合学級(CLIS2、3、4)からの連続性を保障するために、中等教育でのこれらの障害に対応した「集団での統合」を進展させることが述べられている。
 これに関連して、シュレーヌ国立センターの視覚障害担当者の話では、コレージュ(中学校)にCLISを導入することを研究中であるとのことだった。

3)また、同文書では、医療-社会補助の推進(方策11)の中味として、「早期医療-社会支援センター」(CAMSP Centres d'aide médico-sociale précoce)と「通常環境での特殊教育および治療教育のサービス」(SESSAD:services d' éducation spécialisée et de soins à domicile)を拡充することが述べられている。
 これらは、ともに、厚生省系の施設及びサービスである。そのうち、前者は、0歳から6歳までの障害児を支援し、幼稚園への統合も援助するものである。これについては、まだ13の県がこれをもっていないこと、これらの県のために、1998年、1999年と、それぞれ、2000万フラン(注2)の予算をつけたことが述べられている。
 後者は、医療・治療教育、社会福祉などのチームによるサービスによって、障害児が通常の環境で学習したり生活したりすることを支援するものである。これについては、1985年から1996年の問に、その数が739へと3倍以上になったこと、その定員も、1985年の4963人から1998年には18050人に増えたとのことである。しかし、まだ、20の県が、これを一つしかもっていない。そこで、1999年には、2000万フランの予算をつけ、これらの県に優先的に、SESSADをつくるとのことである。なお、ここでは、特殊教育施設(医療-教育施設)を再構築して、SESSADのサービスも提供するようにすることが有益であると述べられている。また、寄宿舎による受け入れの措置数を減らして、SESSADによる援助措置の数を増やすことが述べられている。

4)2000年1月25日の障害者国家諮問会議の報告書2)によると、2001年から2003年までの、統合教育推進のための予算措置として、前述の、「早期医療-社会支援センター」(CAMSP)と「通常環境での特殊教育および治療教育のサービス」(SESSAD)の拡充のために、合わせて3億フランをつけると述べられている。また、他の統合教育推進の予算措置としては、技術的・人的援助のためとして1億8500万フラン、特殊教育用具(コンピュータを含む)に1億7000万フラン、聾児の通訳に1000万フラン、看護ケアサービスに4500万フラン、補助員に2億フランをつけることが述べられている。

5)同報告書は、障害児(者)についての今後の国の政策全般を示したものである。報告書の巻頭には、その政策の大要を示したジョスパン首相によるこの会議での演説も載せられている。
 この報告書によると、統合教育を推進すると共に、重度知的障害児や重複障害児など障害が非常に重い子どものために、特殊教育施設内に、新たに受入先を作ることが述べられており、そのための予算措置も取られている。

6)上記のように、フランスでは、「個別の統合」とともに、「集団での統合」も、統合教育としてすすめられている。
 文部省の担当官の話では、「集団による統合」は「個別の統合」に比べて、人的・物的教育資源を効率的に活用できるという利点があるとのことだった。
 また、シュレーヌ国立センター視覚障害担当者の話では、「個別の統合」は、それぞれの子どもに対応した個々のプロジェクトがしっかりとできていることが必要であるが、その個々全てに応ずるのは難しく、財政的な問題もあるとのことだった。

7)HANDISCOL計画にもみられるように、文部省と厚生省系省庁が協力して統合教育の推進を行っている。
 これについては、後述するように、オードセーヌ県における例として、視覚障害児の統合教育支援を文部省系の「統合教育リソースセンター」と厚生省系の「オードセーヌ県視覚障害児統合教育センター」が協同で行っている例もある。

8)文部省担当官の意見として、フランスでは、普通学校の教師は学業を教えるという意識が強く、障害児を受け入れることに抵抗があるが、それでも、10年ほど前から、教師の意識が、統合教育は義務であり、技術的なサポートが得られれば行うべきだというように、変わってきたということである。

9)地方分権化の一つとして、1989年より、各学校がその学校の教育計画を立てることを義務とした。国の目標の達成はしなければならないが、それをその学校の実状に合わせたやり方で計画を立て実行していくということである。この中には、障害児を含めた多様な生徒に応じる教育体制も含まれると考えられる。

注1:即ち、次の20箇。1.全般にわたるテキストを出版すること 2.法規を再検討し統一すること 3.親を対象とした実際的なガイドを頒布すること 4.HANDISCOLについての問い合わせ電話を設置すること 5.2つの省の統計の方法を一致させること 6.特殊教育委員会の情報処理(システム)を完成させ最適化すること 7.特殊教育委員会の機能を改善すること 8.障害者県諮問会議(CDCPH)のなかに、HANDISCOLの部門を設置すること 9.障害児(者)の学校教育のため、国のレベルでは障害者国家諮問会議(CNCPH)をもち、地域圏レベルではCROSSをもつこと 10.集団での統合を発展させること 11.医療-社会補助のサービスを発展させること 12.統合教育の補助員のサービスを発展させ合理化すること 13.遠隔地教育の国立センター(CNED)のHANDISCOL部門を発展させること 14.シュレーヌ国立センターの機能を強化し教師のための教育方法ガイドを作成すること 15.特殊教育用具についての財政形態を探ること 16.地方自治体が教育機関のアクセシビリティーを高めることを援助する方法を探ること 17.職業教育及び職業資格へのアクセスを改善すること 18.初等教育及び中等教育の教師及び管理職の初期及び継続(次段階)養成を発展させること 19.統合教育の措置および問題点に対して視学官の目をむけさせること 20.2つの省の感覚障害に関しての教師資格を統一すること

注2:1フランは、約16円。

(文責 金子 健)
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