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本文 III 主要国における特別な教育的ニーズを有する子どもの指導について
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III まとめと考察
1.厚生省系諸機関・サービスによる特殊教育
 フランスでは、文部省のみではなく、厚生省系の施設・サービスが直接、特殊教育に関わっている。このうち、医療-教育施設や医療施設は、施設とは言っても、日本で言えば特殊教育学校に当たるものであり、そこでは医療・治療教育の他、学校教育も行われる。また、そのサービスとして、医療-教育部門のSESSAD(通常環境での特殊教育および治療教育のサービス)は、その医療・治療教育スタッフが、文部省系の「集団での統合」(統合学級や統合教育ユニット等)および「個別の統合」の対象となる子どもの支援を行う。また、CAMSP(早期医療-社会支援センター)は、0歳から6歳までの障害児の支援を行い、幼稚園への統合の支援も行う。
 今回訪問した中では、国立盲学校とカサノバ統合学校(聴覚障害児対象)は、典型例とは言えないかもしれないが、タイプとしては、医療-教育施設である。また、後者は、SESSADとしての機能ももっている。
 このような状況である理由は、特殊教育の体系が形成されてきた歴史的経緯による。即ち、文部省系の諸機関に加えて、厚生省がもつ財源(社会保障費)により、特殊教育施設・サービスを作ってきたという理由による。特に医療-教育施設については、1950年頃から、障害児の親の会の要望により、厚生省の社会保障費によって、その子どもたちのための特殊教育施設を作ってきたという経緯がある。

2.統合教育支援の形態
 上記のSESSADのように、その厚生省系の医療・治療教育スタッフが、文部省系の「集団での統合」や「個別の統合」の対象となる子どもへの支援も行うということは、既存のリソースの利用として理に適ったことであると言えるが、これができるのも、上記の歴史的経緯により、厚生省系のスタッフが特殊教育に直接関わってきたことによると思われる。また、SESSADは、基本的に、医療-教育施設に属するものであり、今後の政策としても、既存の医療-教育施設の再構築により、その施設がSESSADのサービスも提供できるようにすることが計画されている1)。今回訪問した中では、前述のように、カサノバ統合学校(聴覚障害児対象)は、すでに、SESSADの機能を持っている。SIAM92(視覚障害児対象)とSSESD APIDAY(聴覚障害児対象)は、医療-教育施設に属さないタイプであり、SESSADとしては例外的なものである。
 統合教育を行う場合、単に子どもを通常の学校に入れればよいわけではなく、その子どもが通常の学校で過ごしていくために必要な支援をどのような形態で提供するかという問題がある。この点に関して、フランスでは、国の制度としては、SESSADのような外部からの厚生省系の医療・治療教育の支援を提供する形態をとっていると言える。このことによって、通常学校に在籍することにより、特殊学校・施設に在籍する場合よりは手薄になり得る特殊教育の支援を補い得るものと言える。
 なお、国立盲学校が行っている視覚障害児の統合教育支援は、SESSADとしてではなく、この学校独自のもののようである。

3.特殊教育の今後の動向
 フランスでは、1975年に障害者基本法により、統合教育が認められ、現在まで、いくつかの通達が出され、また特殊教育学校、学級等の改変、支援態勢の拡充などを行い、その推進のための努力がなされてきた。文部省の担当官は、「1975年以来、現在までの25年間はその実施のための戦いだった」と言っている。さらに、1998年から今後に向けては、HANDISCOL計画により、いっそう統合教育を推進しようとしている。
 しかし、一方では、文部省系、厚生省系双方の特殊教育学校・施設は存続していく方向にある。その存続の理由として、文部省の担当官は、障害が重い子どものためになくすことはできないと述べていた。また、特殊教育のノウハウを継承していくためにも必要だということであった。また、前述のように、医療-教育施設については、それを再構築して、SESSADとしての機能も持たせることにより、リソースセンターとしての役割も果たすようにするという目的もあるようである。
 さらに、2000年1月20日の障害者国家諮問会議の報告書2)が示しているように、障害の重い子どものために、通常教育の場ではなく特殊教育の場に、新たな受け入れの場所を作るという政策が打ち出されている。
 このように、フランスでは、特殊教育についての政策として、一方では統合教育を進めながら、他方では障害が重い子どものために、特殊教育の場での障害児教育の拡充を図るという方向にある。
 この政策が、滞りなく進展していくのか、また、その結果として、障害の軽い子どもも障害の重い子どもも、ともによりよい教育を受けることができるのか、フランスにおける今後の展開が気になるところである。

4.「個別の統合」と「集団での統合」
 統合教育を推進すると言う場合、フランスでは、「個別の統合」とともに、「集団での統合」も、統合教育として進めていく方向にある。
 この「集団での統合」は、初等教育での統合学級、中等教育での統合教育ユニットおよび感覚障害児と運動障害児のための集団での統合方策による教育のことである。
 これらは、日本で言えば特殊教育学級での教育に相当すると言えるが、集団としてではあっても通常の教育の場に障害児を入れるという点で統合教育であると考えられているようである。また、これは、集団での統合にとどまらず、全時間であれ部分的にであれ、「個別の統合」のためのステップであるという位置づけでもある。
 また、この学級の在籍児は、外部からの支援として、前述のように、SESSAD(通常環境での特殊教育および治療教育のサービス)による厚生省系の医療・治療教育の支援を受けることもできる。
 最初から個別の統合が難しい場合に、集団での統合を、そのためのステップと考えて、まずは、そこから始めるという考え方は、有用な考え方であると思われる。
 ただし、今回の調査では「集団での統合」を行っている機関は調査していない。また、知的障害統合学級では、必ずしも、その統合教育という目的を果たしているわけではないという報告もある1)。実際に「集団での統合」がうまく行われているのか、また、知的障害統合学級など、今後改善されていくのか、知りたいところである。

5.訪問諸機関の特徴および示唆されること
 今回、訪問した諸機関のうち、SIAM92は、厚生省系のSESSAD(通常環境での特殊教育および治療教育のサービス)のなかの、3歳以降の視覚障害児支援のためものである。これは、オードセーヌ県の視覚障害児の統合教育支援を行っている。その支援のためのスタッフとしては厚生省系の医療・治療教育、特殊教育の専門スタッフからなっているが、所長は文部省からの配属である。CRISは、同じオードセーヌ県の統合教育支援のためのセンターであるが、これは、文部省系の組織である。ただし、これについては、この県独自の組織である。オードセーヌ県では、これら2つの機関が協同して視覚障害児の統合教育支授を行っている。
 SSESD APIDAYは全国障害児・者協会のイヴリーヌ(Yvelines)県委員会に属する諸機関のうちの一つであり、聴覚障害児のためのSESSADである。これは、日本のことばの教室・通級指導教室に類似した印象を受けるが、SSESDには特殊教育教員に加えて、手話指導員、言語療法士、必要に応じて耳鼻咽喉科医師など、医学、パラメディカルの専門性が発揮される。また、指導者が通常の学級に入り込んで統合教育を進めている。なお、SSESD APIDAY自体が、通常幼稚園内に設置されている。
 国立盲学校は、パリ市内にある世界初の盲学校であるが、盲学校内で視覚障害児の教育を行うとともに、盲学校近辺の通常学校に通う視覚障害児のための統合教育支援も行っている。そのための、医療、治療教育、特殊教育などの専門スタッフを擁している。統合教育支援としては、教科書、教材などを点訳・凸図化・拡大して提供したり、歩行指導を行ったりしている。
 CASANOVA統合学校は、バルドワーズ県のCASANOVA学校群のなかに存在している。学校内で聴覚障害児の教育を行うとともに、聴覚障害児のための遠隔の学級と、指導体制を有している。さらに、個別にサービスを受けている生徒のためにCASANOVA内に専門家を配して、生徒が通うことで、来所サービスを提供している。
 ジャック・ブレル地域適応学校は、文部省系の運動障害児のための特殊学校であり、オードセーヌ県に存在する運動障害のためのセンターである病院に併設されている。そして、病院の医療、治療教育、リハビリテーションのスタッフと協同で、その病院に入院する子どものための特殊教育を提供している。また、病院を退院し学校から転出する子どもを通常の学校に統合するための橋渡しの役割も担っている。
 以上の諸機関は、管轄省庁も異なり、また様々な設置形態および組織形態をとっている。しかし、特殊教育および統合教育支援のために必要な専門スタッフを、機関内および連携のパートナーとしてそろえていることは共通している。特に、医療・治療教育系のスタッフが充実している。そして、それぞれの地域において、特殊教育および統合教育のために、独自の働きをしている。
 日本における特殊教育諸学校のセンター化などにおいて、高い専門性とパートナーシップの確立、また、遠隔学級、遠隔在籍児へのサービス提供というような柔軟なシステム構築の必要性が示唆される。

(文責 金子 健・棟方哲弥)
 
訪問調査先名称・住所一覧
1.第一次調査
(1)Ministère de l'Éducation Nationale, de la Recherche et de la Technologie. 107, rue de Grenelle-Paris 7e

(2)Centre national de Suresnes - Centre National d'Etudes et de Formation pour l'Enfance Inadaptée-.58-60 Avenue des Landes, 92150 Suresnes

(3)Institut National des Jeunes Aveugles. 56, Boulevard des Invalides - 75007 Paris

(4)UNESC0. 7, Place de Fontenoy, 75700 Paris

(5)OECD. ANNEX MONNACO 2, rue du Conseiller Collignon 16e Paris

2.第二次調査
(1)Collège pasteur. rue Jean Jaurès 92230 Gennevillers, Ecole Aulagnicr. 87 rue Picne Boudou 92600 Asnieres

(2)Ecole intégrée CASANOVA. 22,26 rue de Picardie 95100 ARGENTEUIL

(3)Centre national de Suresnes−Centre National d'Etudes et de Formation pour l'Enfance Inadaptée−.58-60 Avenue des Landes, 92150 Suresnes

(4)EREA Jacque BREL. 104 Bd Raymond Poincaré 92380 GARCHES

(5)SSESD APIDAY (Service de Soins et d'Éducation Spécialisée à Domicile, Service de Soins de l'A.P.A.J.H. Yvelines). モーリス・ジュネボア幼稚園 (Ecole maternelle Maurice-Genevoix) 内, 60, rue Alsace-Lorraine 78180 MONTIGNY-LE-BRETONN EUX, 及びポアリエ・サンマルタン小学校 (Ecole Primaire du Poirier-St-Martin). Rue de Valois Alsace-Lorraine 78180 MONTIGNT-BRETONNEUX

(6)SIAM92 (Service d'Intégration des Aveugle et de Malvoyants des Hauts de Seine). 14 avenue du Général de Gaulle 92150 Suresnes

引用文献
1)CNCPH:CNCPH-20 avril 1999 20 Mesures pour améliorer la scolarisation des enfants et adolescents handicapés. CNCPH, 1999.

2)CNCPH:Dossier de Presse Conseil nationnal consultatif des personnes handicapées 20 Janvier 2000. Ministère de l'Emploi et de la Solidarité, 200.

3)大臣官房調査統計企画課:G8教育大臣会合参加国の教育政策.文部時報, No.1487, 41−47, 2000.

4)Mége-Courteix , M.&Lesan-Delabarre, J.:Intégration, scolarisation, accueil des jeunes handicapés ou en grande difficulté en France memento pratique. éditions du Centre national de Suresnes, 1998.

5)Ministère de l'Éducation Nationale, de la Recherche et de la Technologie:Guide pour la scolarisation des enfant et adlescents handicapées (HANDISCOL). 1999.

6)Ministère de l'Éducation Nationale,de la Recherche et de la Technologie:Handiscol.  http://www.education.gouv.fr/syst/handiscol/default.htm, 2000.

7)Ministère de l'Éducation Nationale:Repéres et références statistiques sur les enseignements, la formation et la recherche édition 2000. DPD édition, 2000.

8)Ministère de l'Éducation Nationale, de la Recherche et de la Technologie, DPD:Tableau Statistiques 6735, Élève Handicapés Intégrés dans une Classe Ordinaire en Premier Degré. Enseigement Spécial-élève et personnels des CLIS -établissement médicaux, médico-éducatifs et sociaux. DPD édition, 2000.

9)溝上脩:フランスにおける統合教育の動向. 落合俊郎監修,世界の特殊教育の新動向,日本知的障害福祉連盟,201−230,1997.

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