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本文 III 主要国における特別な教育的ニーズを有する子どもの指導について
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III 通常学校における特別な教育的ニーズのある子どもへの支援について
 特別な教育的ニーズのある子どもの教育を原則的には通常学校で提供する取り組みとして、インテグレーション、インクルージョンが課題となっている。1997年の10月に示されたグリーントペーパーにおいても、「インクルージョンの拡大」として、その取り組みを強化する方向である。

1.特別な教育的ニーズのある子どもとインテグレーション
1)インテグレーションの動向
 英国では、障害のある子どもに「できるかぎり通常学級で教育を」という方針は近年のものではない。1970年代にまとまりを持つ考え方となり、1976年教育法の第10条によって、よりインテグレートされた形態で、かつ通常学級における手だてを改善していく方向が示された。ウォーノック報告では、「教育の場と同様にその教育の質を大切にし、分離された形態で教育を受けている子どもが通常の学校で、特別な教育的手だてを受けることが可能になることを望む」としている。正式には1981年教育法によって、地方教育局(Local Educational Authority:LEA)に、基本的には通常の学校で特別な教育的ニーズのある子どもの教育を準備するように義務づけた。この「できる限り通常学級で」の方針について、1996年の教育法では、その表現も1981年の教育法から大きくは修正されておらず、基本的には同じである。
 「特別な教育的ニーズのある子どもは、特別な場合を除いて、通常の学校で教育を受ける」の項目では、次のように述べられている。

(1)以下に述べる条件が満たされて、保護者の意向と対立がないならば、特別な教育的ニーズのある子どもは、特別学校でなく、通常の学校で教育を受ける。
(2)以下の条件とは、
 a)学習における困難さを解消する教育的手だてが提供される。
 b)一緒に学ぶ他の子どもに効率的な教育が提供される。
 c)リソースの有効活用が行われる。

2)インクルージョンとその動向
1997年のグリーン・ペーパーにおいて、「インクルージョン」という用語が採用された。その方向が強化された背景として、1995年の「障害者差別禁止法(DDA)」が大きな影響を与えている。グリーン・ペーパーにおいては、質の高い教育的手だてを提供しつつ、インクルージョンを展開していくために、特別学校の役割の変更とその連携が提案されている。

3)通常学級における特別な教育的ニーズの現状
 これらの方針にも関わらず、特別学校に在籍する児童生徒の割合に大きな変化はない。1994年に1.26%であり、2000年に1.2%であった。一方、通常学級に在籍する特別な教育的ニーズのある子どもの割合は、2000年で、初等教育学校で平均22%、中等教育学校で平均20%となっている。5人にひとりの割合で、特別な教育的ニーズがあるとされている。この数値も地域や学校ごとのばらつきが大きく、0%から最高で約60%となっている。特別な教育的ニーズの判定基準が地域によって異なるために、この結果となっていると推測される(表2参照)。

4)保護者の選択
 政府は、強力にインクルージョンを推進しているが、通常教育の教師、特殊教育の教師、そして保護者(障害のある子どもとそうでない子どもの保護者)に反対の意見もある。政府としては、社会全体がインクルージョンの方向に進むように考えている。
 学校を選択する場合にも、保護者の意向は重要となっている。保護者は、子どものことを最もよく知っている者として、教育におけるパートナーとして位置付けられている。

2.通常学校における取り組みと工夫
1)学校における方針とSENコーディネーター
 通常の学校が、特別な教育的ニーズのある子どもに対して、支援を提供する法律的な枠組みがある。1994年の教育施行令において、1995年の8月1日までに、すべての通常の学校は、特別な教育的ニーズに関する方針(SEN Policy)を成文化し、そのニーズに応じた教育的手だてを調整する責任者であるSENコーディネーターを置かなければならないことになった。これは、特別な教育的ニーズのある子どもの教育的手だてを、通常の小学校や中学校でも学校として取り組むことが義務づけられた最初の法律と考えられる。
 学校の特別な教育的ニーズに関する方針には、特別な教育的ニーズのある子どもをどのように発見し、どのような手だてを実行し、その成果をどのように点検するかについて規定することを求めている。この要点を学校要覧に記載し、年度末のまとめで、その方針がどのように実行されたかについて総括することが必要とされた。
 SENコーディネーターは、通常学校において特別な教育的ニーズに応じる担当者であり、すべての学校において校長が指名することとされた。学校の校長には、特別な教育的ニーズに応じる手だてを含めて、学校のすべての事柄を管理する責任があり、校長により指名されたSENコーディネーターには、学校の特別な教育的ニーズに関する方針を実行する責任があるとされている。
 SENコーディネーターの役割としては、以下の点があげられる。
(1)学校の特別な教育的ニーズに関する方針を実行する。
(2)学校の学級担任教師と連携し、教師にアドバイスを行う。
(3)特別な教育的ニーズのある子どもの具体的な教育的手だての調整を行う。
(4)学校において、特別なニーズのある子どもの登録を行い、特別な教育的ニーズのある子どもの記録をまとめる。
(5)特別な教育的ニーズのある子どもの保護者と連携を取る。
(6)教育心理サービスや援助団体、医療関係サービスや社会福祉サービス等学校外の団体と連携する。
 この学校の取り組みについては、教育水準監督局(Office of Standards in Education:OFSTED)による学校の評価において、特別な教育的ニーズに関連した法定的な義務を果たしているか否かが査察される。

2)特別な教育的ニーズに関する実施規則
 通常の学校に在籍する子どもに、特別な教育的ニーズがあるか否か、またその場合には、どのように教育的手だてを準備するかというガイドラインが、1993年の教育法で取り上げられ、その実施規則が、1994年の教育施行令に規定された。実施規則には5つの段階があり、通常学校で行われる取り組みが最初の3段階で、その後の2段階が地方教育局を中心に行われる取り組みである。

 ステージ1:通常の学校で、担任やその他の教師が、子どもの生活の問題や学習上の困難さに気づいた場合に、学校内の担当教師(SENコーディネーター)と連絡をとり、そのことを親に伝える。親に伝えると同時に、学校において、親を含めて話し合いの場が持たれ、(1)これまでの子どもの発達の経過、(2)現在の家庭や学校での子どもの様子、(3)考えられる原因とそれを解決する手だてなどが話し合われる。もし可能であれば、必要に応じて子ども自身から話を聞くこともある。この話し合いで、検討された手だてが実践され、それによって問題が解決されなければ、次のステージ2に進む。

 ステージ2:SENコーディネーターは親や関係する教師と話し合いを持ち、その子どもに適切な個別教育計画(IEP)を作成する。この教育計画には、(1)教育内容、(2)目標、(3)次の見直し時期などが定められ、必要に応じて子どもの担当医や校医の意見も参考にされる。家庭での協力も求められ、学校と家庭の緊密な連携が必要とされる。次の見直しにおいて、明らかな解決が見られない場合に、次のステージ3に進む。

 ステージ3:ステージ1、2を経て、学校が子どもにさらなる手だてを必要と考えた場合に、学校外の専門家(地方教育局の教育心理学者やそれぞれのニーズに関する専門教師など)にこれまでの経過を示し、アドバイスを受けながら、新たな教育計画を作成し、実践する。多くの場合は、この段階で子どもの学習における困難さは軽減し、その手だての効果が確認されることが多い。しかし、もしこの段階で期待した成果が得られない場合には、次のステージ4、5と進む。ここまでの3つのステージが、通常の学校を中心とした取り組みになり、その後のステージは地方教育局を中心とした取り組みとなる。いわゆる法定評価(statutory assessment)の段階となる。

 ステージ4:地方教育局が学校、親、他の専門家と連携しながら、子どもの特別な教育的ニーズに関する法定評価を実施するか否かを検討する段階であり、もしその必要があれば、子どもの関係する全ての分野から情報を集め、法定評価を実施する。

 ステージ5:法定評価の結果と学校において取りうる手だてを検討し、「判定書」を作成するか否かが検討される段階である。この「判定書」には、法定評価をとおして得られた問題点や特別な教育的ニーズの詳しい内容、またそれに対応するために行われる手だて(人的、物的資源の活用、さまざまなセラピーなど)が示される。この法定評価は、最低1年ごとに見直しが行われる。

3)実施規則の見直し
 1994年に規定された実施規則は、2000年に改正案が示され、関係機関からの意見をもとに、改訂作業が進められ、2001年6月に新たな実施規則が制定された。その改訂された実施規則では、1994年の実施規則における学校での取り組みのステージ1から2の段階を「スクールアクション」とし、地方教育局の協力を得て、外部の専門家の支援を受ける段階を「スクールアクションプラス」としている。この変更には、特別な教育的ニーズのある子どもの対応について、学校の活動を基盤として行っていく姿勢が示されていると考えられる。

4)早期教育段階での対応
 2001年に改訂された実施規則には、子どもが自らの考えを述べる権利、十分な情報を得た上で、決定を行う権利が強調されていることに加えて、早期教育段階での対応を強化する方向が示されている。子どもの早期教育を実施するいずれの保育園、幼稚園いずれの保育学校、保育園、私立学校、保護者が運営するプレイグループ等においても実施規則に従って、特別な教育的ニーズに応じた支援を提供することが求められている。
 ここでの対応についても「アーリー・イアーズ・アクション」と「アーリー・イアーズ・アクション・プラス」の2つの段階で、その対応を検討することになっている。また、それらの機関でも特別な教育的ニーズに関する方針を成文化し、SENコーディネーターを置くこととなっている。
 さらに、初等教育学校に入学直後の評価(baseline assessment)をすべての子どもに実施することになっていて、そこで特別な教育的ニーズのある子どもを特定し、支援していこうとしている。この評価は、試験や検査用具を用いる評価でなく、日常的な活動の中で実施されるものである。
(徳永  豊)
 
資料

・Department for Education and Employment: Exellence for all children -Meeting Special Educational Needs-. The Stationary Office U.K. 1997.
・Department for Education and Employment: What the Disability Discrimination Act(DDA)1995 means for School and LEAs. Circular number 3/97.
http://www.dfee.gov.uk/circulars/3-97/summary.htm
・Department for Education & Welsh Office: Code of Practice on the Identification and Assessment of Special Educational Needs. Central Office of Information, London, 1994.
・Department for Education and Employment: Full Version of SEN Code of Practice.
http://www.dfee.gov.uk/sen/standard.htm 2001

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