NISE 本文へ 独立行政法人 国立特殊教育総合研究所
English お問い合わせ一覧
このウェブサイトについて 交通案内
TOP(What's NEW)
研究所の概要
各種お知らせ
Q&A
研究者・研究内容
研修・セミナー
教育相談の案内
国際交流
刊行物一覧
図書室利用案内・データベース
教育コンテンツ
研究所の運営について
関連リンク
情報公開
刊行物一覧
本文 III 主要国における特別な教育的ニーズを有する子どもの指導について
トップ(目次) > III章トップ(目次) > 1.イギリス-07
< 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7| 8 | 9 | 10 | 11 | 12 >
6.学校事例4 Chinnor Resource Unit(CRU)
1)自閉症を対象にしたオックスフォード(Oxfordshire)地方教育局の教育サービスシステム
 オックスフォード県は自閉症の子どもに関する独自の取り組みが他の地域より充実している。そのため他地域からの転入がみられるほどである。
 オクスフォード県では3歳から18歳までの幼児児童生徒8,000人の内、350人が自閉症スペクトラムに含まれていて、子どもたちの状態に応じた3種の教育サービス、すなわち通常の学校での教育サービス、チノア・リソースユニット(Chinnor Resource Unit:CRU)での教育サービス、特別学校での教育サービスが提供されている。
 自閉症スペクトラムに含まれている350人の子どもたちの内訳は、200人が通常の学校への在籍、98人(他地域からの28人を含む)がCRUへの在籍、80人が特別学校への在籍である。特別学校とCRUに在籍している子どもはすべて「判定書」を有しているが、通常の学校に在籍している場合は必ずしもそうではない。
 他の県でこのようなユニットがない場合は、自閉症の子どもの通学先は通常の学校か特別学校になるという。

2)Chinnor Resource Unit
 リソース・ユニットとは、オックスフォードの自閉症を対象にした教育サービスシステムの一つで、6つの通常の学校に併置されている。それぞれはペイス(Base)とよばれ、全体でユニットを構成している。
 小学校に1ペイス、中学校に1ペイス、高等学校に1ペイス、10歳から13歳を対象にした学校に1ペイス、5歳から10歳を対象にした学校に2ペイスが併置され、全体で98人の幼児児童生徒を対象にしている。
 それぞれのペイスは、
(1)キャンパスを通常の学校と共有している。
(2)幼児・児童・生徒の学籍は通常学校にある。
(3)授業の形態はいわゆる「交流」による場合と、ペイスでの学習との両方がある。
(4)ユニットはオクスフォードの地方教育局によって直接運営されており、スタッフは地方教育局のスタッフである。
(5)それぞれのベースのスタッフは、Base Coordinator(責任者)、教師、セラピスト(音楽療法士、遊戯療法士、心理療法士、ドラマ療法士、芸術療法士)、インストラクター(ヨガ、アロマテラピー、ダンス)、そしてアシスタントである。ユニット全体(6つのベース:98人の児童・生徒)で17人の教師、6人のセラピスト、10人のインストラクター、40人のアシスタントが従事している。教師、アシスタントは個々のベースに所属しているが、セラピストとインストラクターは個々のベースを巡回している。おおよそ、子ども2,3人に対して、教師1人、アシスタント1人が配置となっている。
(6)キャンパスを共有する通常学校との交流については、それぞれのベースのベース責任者と通常学校のSENコーディネーターが協議して進めている。
(7)教育は様々なアプローチを総合的に取り入れて進めている。

3)Lord Williams's School:Lower Schoolに併設されているCRUへの訪問
 中学部段階の年齢の生徒が対象となっていた。17人の生徒が障害の程度で2つのグループに分かれている。われわれが訪問した際には、障害が重いグループのベースでの授業場面に参観したが、ここでは6人の子どもに対して、教師1人、アシスタント3人で取り組んでいた。ナショナルカリキュラムのキー・ステージ1に取り組んでおり、絵文字のような視覚性の言語を多用していた。子どもの評価に関しては、可能な子どもはGCSEを受験するが、難しい子どもの場合はユニット独自の評価法を用いているとのことであった。
 この学校では自閉症の他に脳性麻痺、視覚障害、アスペルガー症候群等の子どもが在籍して通常学級で授業をうけている。それぞれ個別にアシスタントが付き、視覚障害の場合は学校支援教師の巡回による指導も行われているが、ユニットがあるのは自閉症だけである。
 学校側の教師から交流の取り組みについて話を聞いた。
(1)交流は個人の状況に応じて進めている。集団活動であっても、参加するかしないか、どのような参加の方法にするか、その進め方のペース等、ポジティプな見方で個々にあわせて進めていく。
(2)例えば英語が苦手でドイツ語に興味を持った子どもが通常学級の(外国語としての)ドイツ語のクラスに出席しているなど、プログラムはフレキシブルであった。
(3)ユニットは通常学級で授業を受ける自閉症の子どもにとって安心できる「逃げ場」的な働きをもっていると同時に、社会性に苦手なところのある通常学級の子どもやLDの子どもがやって来て、調理をしたり、一緒に遊んだり、時には読み書きの授業を一緒に受けたりすることもある。
(4)通常学級の子どもたちに対しては、9月の入学当初(7学年)にユニットに在籍している子どもたちについて説明を行い、翌年度(8学年)は自閉症に関する専門的な話をしている。
(5)2001 Rock Challengeという全国規模の歌とダンス大会に、ユニットが中心となり通常学級の子どもたちと一緒のグループで参加した。その際、ユニットとしては授業の一環として、通常学級はクラブ活動の一環として、プロジェクトとして取り組んだ。ユニット側の子どもは最初はパニックになり、通常学級の子どももどうしてよいかわからず当惑することがあった。しかしながら、自閉症の子ども1人に対し通常学級の子ども3人という少人数のグループを作って取り組んだことで、通常学級の子どもたちもどうしたらよいか徐々に分かってきた。このプロジェクトは大会で入賞するという成果を挙げただけではなく、通常学
級の側から交流への誘いが増え、その内容もダンスクラブヘの誘いかけなど、多彩になってきている。それ以前の交流はコーラスのクラスへ自閉症の子どもを送り込む、クロスカントリーに参加させるなど、もっぱらユニット側からの働きかけで、通常学級の子どもたちに影響を及ぼさないものに限られていたという。

4)St.Andrews School:Lower school(Primary school)に併設されているCRUへの訪問
 この小学校は25年前に、自閉症の子どものためのCRUがはじめて設置された学校である。ここのベースは在籍児童が20人で、このうち4人がオクスフォード県外から通学していて、このSt.Andrews Schoolで授業を受ける統合教育になっている。
 ベースの第5−7学年のクラスは3人の子どもに対し教師1人、インストラクター1人、アシスタント1人で授業を行っていたが、他のクラスは子ども4人に対し、教師1人、アシスタント2人という配置であった。
 このベース全体に所属するスタッフは、教師3名、音楽療法士1名(週1回:4人の子どもに対して)、芸術療法士1名(週1回:3人の子どもに対して)、心理療法士1名(週2回:1人の子どもに対して)、言語療法士1名(週1回:すべての子どもに対して)、作業療法士と理学療法士各1名(随時)、インストラクター1名、アシスタント10名(パートタイムを含む)である。
 交流はベースコーディネーターと学校のSENコーディネーターとの協議によって、個々の子どもに応じ、あるいは集団で進めている。昼食、休み時間、体育、音楽、いくつかの教科ですすめているが難しいとのことであった。交流では通常学級の教師とベース(ユニット)のスタッフは役割分担がはっきりしていて、交流におけるプログラムや実際の進め方についての多くの責任はベース(ユニット)側が負っている。
 予算を見ると、「判定書」がある子どもの場合、子どもの年齢で単価が決まっているが、おおよそ年間あたり一人につき1,200ポンドとのことであった。2年前までは通常学級との交流に応じて経費を学校に支払っていたが、現在ではそのようなことはないという。

5)Lord Williams's School:Upper schoolのSENコーディネーターとのインタビュー
 Lord William SchoolはLower schoolとUpper schoolそれぞれが別のキャンパスをもっており、中学校と高等学校段階を合わせた学校である。このUpper schoolに併設されているCRUへ訪問した際に、学校側のSENコーディネーターと面談し、Lord William Schoolの学校側の情報についてインタビューした。
 CRUに所属する自閉症の生徒を除いて、200人が特別な教育的ニーズを有しており、全体の10%にあたるという。障害の状態をみると、視覚障害、聴覚障害、学習困難、肢体不自由、行動障害、言語障害、失行障害、アスペルガー症候群、学習遅滞(Slow Learning Difficulties)であり、ほとんどは学習困難の生徒であり、アスペルガー症候群は「判定書」を有してはいないとのことである。
 生徒が受けているアシスタントのサポートをみると、ステージ5の「判定書」のある生徒は36人であるが、肢体不自由の生徒はフルタイムのサポートが受けられ、他のステージ5の生徒の場合は週29時間の授業時数の内の10時間であり、これらの経費は地方教育局から出ている。ステージ3の生徒の場合は同じく5時間のサポートを受けているがこの場合は学校が経費を負担にしており、ステージ2の生徒の場合はアシスタントのサポートはなく、通常学級の教師が努力している。アシスタントによるサポートの延べ時間は週あたり930時間である。
 学校全体としてすべての教師が特別な教育的ニーズのある子どもに対して責任を負っているとしているが、5人の教師が特に特別な教育的ニーズのある子どもをモニターしたり、個別指導計画の作成にかかわったり、保護者との連絡や通常学級の教師の相談にのる役割を担っている。そのほかに32人(近々40人に増員される)のアシスタントが配置されている。
 通常学級は30人の生徒で構成されているが、そのうち3、4人、ときには6人の特別な教育的ニーズのある子どもが在籍している。これらのクラス分けには、障害の状態を考慮してSENコーディネーターがあたっている。通常学級の教師に対する研修としては、学習教材、授業の具体的な進め方について実施しており、給与面で優遇されるAdvanced Skill Teacherという認定された資格があり、その取得を進め、よい教師を学校現場にとどめるよう努力しているという。
 行動障害に関しては、どのような障害なのか、なぜそのような行動をするのか、目標とする行動は何であるのかなど、学校をあげて研修を積むと同時に人的、経費的な措置を講じると共に、保護者の参加を促してきた。このような取り組みを経て、現在では通常学級の教師の特別な教育的ニーズのある子どもへの受け入れはよく、不平や不満の声は聞かれないという。
 最大の困難は経費である。200人の特別な教育的ニーズのある生徒に、学校独自の予算として134,000ポンド(約2,278万円)を割り当てている。同じく地方教育局から253,120ポンド(約4,303万円)が支払われている。他に教材費として学校は14,000ポンド(約238万円)を支出している。行動障害に関しては中央政府から別枠で19,000ポンド(約323万円)の予算があるが、これでも不十分であり、80,000(約1,360万円)ポンドほど学校が独自に負担している。
 SENコーディネーターとしてのキャリアを聞くと、通常学級の教師としてスタートし、やがてAdvanced Skill Teacherの認定を受けた。その後SENコーディネーターとして仕事をしているという。給与は各教科の主任程度であり、将来もSENコーディネーターとして仕事を続けていくことができるが、副校長や校長の職へ移っていく場合が多いとのことである。現在はSENコーディネーターになるためには特別な教育的ニーズに関する修士号をもっていることが必要で、これは現職研修で取得できる。

(土谷 良巳)
 
資料

・Diagram of style of support available in different placements for autism
・Liaison Mill Lane County Primary School and the Chinnor Resource Unit

目次に戻る 本章のトップへ戻る 次のページへ

Copyright(C)2003 独立行政法人 国立特殊教育総合研究所