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本文 III 主要国における特別な教育的ニーズを有する子どもの指導について
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5.学校事例3 Egerton Rothesay School
1)概要
 エガートンスクールは、ハートフォードシャーに位置する私立学校で、ローワースクール(2歳半から7歳)、ミドルスクール(7歳から10歳)、アッパースクール(11歳から16歳)、さらにシックスフォーム(大学入学を目指す生徒のためのコース)から構成される。全生徒約500人のうち、特別な教育的ニーズがあるとして登録されている生徒は180人、そのうち90%は何らかの読み書きに関する困難を持っている。この学校の近隣に、著名な進学校があり、その学校で不適応を起こした生徒や、ハイレベルの進学を目指さない生徒がこの学校へ入学してくるという事情もある。私立学校ということもあって、保護者の社会経済的状況は、中流から上流程度と推察される。ここには、軽度・中度学習困難を主な対象とした部門が設置されており、この部門の責任者が、この学校のSENコーディネーターを兼ねていた。

2)特別な教育的ニーズのある児童生徒
 上記部門に所属する生徒は、それぞれの学習困難の度合いに応じて、通常学級(メインストリーム)での授業に参加する。ほぼフル・タイムで参加する生徒から、すべての授業をユニットで受ける生徒までさまざまである。ユニットに所属する生徒の中には「判定書」を有する者と有しない者がいる。通常学級に在籍する生徒の中にも、「判定書」を所持する生徒がいる。また、クラスの中には、ユニットには属さないが特別な教育的ニーズがあるとして登録されている生徒が数多くいる(表6参照)。

表6.見学先クラスにおける特別な教育的ニーズのある子どもの状況
授業科目 クラス全人数 SENのある生徒数 補助内容 教師の人数
IT 14 7 読み・書き・計算・言葉の定義 1
IT 15 9 読み・書き・計算・言葉の定義 1+アシスタント
社会 5 4 読み・書き・計算・言葉の定義 1
ドイツ語 2 2 コーディネーション 1
音楽 15 7 不明 1
地理 18 5 読み・書き・計算・言葉の定義 1
美術 15 8 読み・書き・計算・言葉の定義 1
英語(上級) 13 3 綴り・読み 1
英語(中級) 8 5 綴り・読み・英語全般 1+アシスタント


 この学校における特別な教育的ニーズの登録内容としては以下のものがある。
 視覚性の読字障害、聴覚性の読字障害、言語処理障害、会話障害、一般的な読書困難、構成障害、ディスプラキシス、綴り障害、聴覚障害、数概念に関する学習困難、空間概念に関する学習困難、情緒障害、記憶障害、スロー・プロセッシング、学習遅滞、順序性に関する理解障害、語音分節化困難、第二言語としての英語、外国語としての英語、軽度・中度学習困難。

3)子どもの指導に当たるスタッフ
 すべての教師が、特別な教育的ニーズに対応しており、専属の教育心理学士が全体をサポートしている。また、個別指導は特別な教育的ニーズ教師(何らかのディプロマを所持)が担当する。この他にも、補助教師として、カウンセラー、言語療法士、作業療法土、理学療法士がパートタイムで補助する。教師の中には、巡回教師も含まれる。特別な教育的二一ズ教師等は主に新聞広告等によって募集される。教師に対しては、特別な教育的ニーズに関する研修が行われており、それは主に専属の教育心理学士が調整している。ここ最近の研修の主なテーマとしては、読み書き障害(dyslexia)をめぐる理解、学習困難のある生徒への指導方法、生徒の自己評価について等があげられる。

4)支援サービス
 特に、この学校では、ディスレクシア(読み書き障害)への対応に力点をおいており、「読み」や「書き」、「英語全体」などに関して、それぞれ抽出されての補習や、授業内での配慮などの援助を受けている。校内には、多くの「個別指導ルーム」が存在し、1対1の指導(補習)を受ける。特別な教育的ニーズ教師は、通常学級での授業にティームティーチングの形態で入りこむこともある。
 カリキュラムとしては、かなり独自の編成を行っている。私立学校であることから、ナショナル・カリキュラムをすべて履行する必要性が薄く、自由裁量の部分が多いので独自の取り組みが可能であるとのこと。多くの特別な教育的ニーズのある子どもの受け入れは、学校全体の到達度評価(到達度評価一覧における学力ポイント)を低下させることにつながるのではないか、という点に関しては、これまでのところそのような心配はないとのことであった。特別な教育的ニーズヘの対応によってむしろ学力の向上が図られるケースが多く、中等教育修了一般試験(General Certificate of Secondary Education: GCSE)での成績も伸びている。
 特別な教育的ニーズのある子どもへの対応について、例えば1対1の個別指導を受ける場合、時間あたり約22ポンドの費用を保護者が負担する。通常学級でアシスタントの支援を受ける場合、その生徒が「判定書」を有していれば、地方教育局がその費用を全額支払うが、所持していなければ保護者が支払う。この費用には、教材・教具代、本代などが含まれている。

5)その他
 校長に案内されて教室を訪問した際、校長が教室の生徒たちに「君たちの中で、スペシャルニーズのヘルプを受けている人は挙手して」と尋ねると、数人の生徒が戸惑うことなく挙手し、さらに校長が生徒たちにどういった内容のヘルプを受けているかを尋ねると、それぞれ「綴り」「読み」「英語全部」といったように、自分の受けている援助内容を答えていた。ここでは、特別な教育的ニーズが否定的側面でもって捉えられがちな「障害」というよりも、学習上の困難、あるいは不得手部分という認識であることを強く印象づけられる場面であった。
 また校長は、インクルージョンを進めていく上での課題として(1)改良を加えた教育方法(adapted teaching)、(2)読み、(3)交流、(4)子どもの学習スキルの四点をあげていた。

(菅井 裕行)
 
資料

・School Information
・Sample of Statement of Special Educational Needs and Provision Issued by Hertfordshire County Council
・Guidance for understanind DYSLEXIA and DYSPRAXIA
・Egarton-Rothesay School Magazine

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