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本文 III 主要国における特別な教育的ニーズを有する子どもの指導について
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3.学校事例1 Bournvill Infant School
1)概要
 ボーンビル・インファント・スクールはバーミンガムの中心部から自動車で30分はど走った郊外の住宅地にある公立学校(State School)である。同じ敷地にBournvill Junior Schoolがある。3学年(レセプション:4歳から5歳、第1学年:5歳から6歳、第2学年:6歳から7歳)からなっていて、総定員270名(1学年90名)である。1910年にクウェーカー教徒の子弟のための学校として設立されたが、現在は公立の学校となっている。
 道路をはさんで、クウェーカー教徒が設立したチョコレート工場があり、学校の周辺の住宅の多くは、当時のチョコレート工場で働く従業員のためのものだったという。
 大半の子どもが白人であり、12パーセントの子どもが給食費を免除されているが、これは全国平均を下回っているという。
 2000年3月に実施されたこの学校への査察(Inspection)によって、校長以下、それぞれのスタッフによる特別な教育的ニーズのあるの子どもへの熱心な取り組みが高く評価されている学校である。

2)特別な教育的ニーズのある子どもについて
 在籍児童数は280人であった。特別な教育的ニーズのある子どもを実施規則の段階であるステージごとに整理すると、次のようになっている(R:レセプション、Yl:第1学年、Y2:第2学年)。

ステージ1 : R ( 0 )、 Y1 ( 13 )、 Y2 ( 11 )
ステージ2 : R ( 4 )、 Y1 ( 2 )、 Y2 ( 11 )
ステージ3 : R ( 1 )、 Y1 ( 2 )、 Y2 ( 1 )
ステージ4 : R ( 0 )、 Y1 ( 0 )、 Y2 ( 0 )
ステージ5 : R ( 1 )、 Y1 ( 1 )、 Y2 ( 2 )
( )内の数値は人数
 ステージ5の4人の幼児・児童は、ダウン症、てんかん、難聴、cystnosisの子どもである。それぞれ「判定書」をもっていて、アシスタント(Learning Supporrt Assistant;LSA)の支援を受けながら通常学級で授業を受けている。他の子どもたちの障害としては自閉症、ADHDがあげられている。

3)特別な教育的二一ズのある子どもの指導にあたるスタッフと支援について
 3学年9クラス、1クラスあたり30人の子どもによる構成であるので、校長以外に9人の学級担任(内2人はそれぞれ副校長とSENコーディネーターを兼ねている)がいる。
 他に5人のクラスルーム・アシスタントと呼ばれるアシスタントがいてレセプションのクラスに3人、第1学年に1人、第2学年に1人配置され、ステージ2、3の子どもに対応している。このスタッフについては学校が独自に経費を当てている。
 特別な教育ニーズのなかでも障害のある子ども(「判定書」を有する子ども)のためのアシスタントは、この学校ではインテグレーション・アシスタントと呼ばれており、ステージ4と5の子どもについている(今年度はステージ4の子どもがいないのでステージ5のみ)。第2学年のステージ5の2人の子ども(重度難聴の子どもとcystnosisの子ども)のためにフルタイムで1人、レセプションのステージ5の1人の子ども(てんかん)と第1学年のステージ5の1人の子ども(ダウン症)にそれぞれ半日のパートタイム(毎日午前中の支援)でついている。このアシスタントの経費は「判定書」にもとづき地方教育局が負担している。
 第2学年のステージ5の2人の子ども(重度難聴、cystnosisの子ども)のためのアシスタントは手話に関しては認定された資格を有しているが、cystnosisの子どものケアで必要となる医学的な知識、また薬の投与や胃ろうからの注入に関する技術に関しては正式な訓練は受けていない。子どもの入院していた病院の看護婦から受けたインフォーマルな訓練と保護者と主治医の同意によってそれらのケアに当たっているという。
 この他に学習支援教師(Learning Support Teacher;LST)が地方教育局から2週に1回派遣されている。午前中はステージ2と3の子どもに対して読み書きと算数の専門的な指導を行い、午後はクラスルーム・アシスタントとして仕事をする。この学校へ訪問しているLSTは、通常学級の教師として13年のキャリアがあり、言語教育の専門の資格(Language Coordinator)を有する特殊教育教師で、この学校の他に小学校6校、中学校2校を担当している。
 さらに地方教育局から、教育心理、作業療法士、言語療法士などの専門家の支援を不定期に受けている。

4)印象に残ったことなど
 丁寧な説明に加えて、エネルギッシェに校内を案内してくれた校長の言動や教室の様子から、この学校が熱心に特別な教育的ニーズのある子どもの教育に取り組もうとしていることが窺われた。
 われわれが訪問した日は、保護者も参加する学期に1回の朝の集会行事が行われた日であり、校長室での説明もそこそこにわれわれも集会に参加した。講堂(兼食堂)で行われた集会は子どもたちの演技と手話歌(Signed English Song)で織りなされていたが、進行の会話も手話によって丁寧に表現されていた。子どもも担任もともに、にこやかに手話と声をまじえて交わされる演技や歌はその場の雰囲気を十分に和ませるものであった。
 学習支援教師やアシスタントによる通常学級での指導、小部屋での1対1での指導によって特別な教育的ニーズのある子どもへの対応がなされており、大半の子どもは読み書きと算数に困難があるようであったが、ステージ5の子どもに関しては、障害という観点からの専門的な支援がなされていた。
 ステージ5の重度難聴の子どもは地方教育局からの経費によりFM補聴器をつかって、アシスタントの援助を受けながら通常学級の教師から授業を受けることができており、いくらかたどたどしいが十分に聞き取れる程度の英語を話していた。
 他のステージ5の子どもも話すことができる様子であった。読み書き、算数に関しては小部屋での1対1での指導がなされていた。
 cystnosisの子どもは、会話は十分に可能なようであったが、学力的には低く、到達度評価一覧(League Table〉のスコアを下げる要因になっているということであった。むしろそれ故にこの学校での特別な教育的ニーズの教育の真価が問われるということを校長は力説しつつ、卒業を間近に控え、この子どもの受け入れ先の学校が受け入れを敬遠していることを、怒りとも嘆きともつかない表情で語っていた。

(土谷 良巳)
 
資料

・Summary of the Inspection Report: Bournvll Infant School, March 2000.

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